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【Researcher's Eye】
山浦克典:薬剤師が取り組む口腔ケア

2022/04/18

  • 山浦 克典(やまうら かつのり)

    慶應義塾大学薬学部教授・附属薬局長
    専門分野/社会薬学

近年、薬局・薬剤師は保険調剤にいそしむのみでなく、国民の健康維持増進にも貢献することが求められている。「健康サポート薬局」は、厚生労働大臣の定める基準に適合した薬局のみが標榜できる制度であり、2016年から届出が開始された。当該薬局は、所定の研修を修了した薬剤師が常駐し、地域の医療機関と連携し、地域住民の疾病予防・健康維持増進を先導することが期待される薬局であり、本塾薬学部附属薬局も健康サポート薬局である。

薬剤師が地域住民の健康サポートに携わる上で、これまで専門外としてあまり注力してこなかった領域が口腔ケアによる口腔疾患の予防、口腔健康の維持増進である。代表的な口腔疾患である歯周病は、糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞、さらには認知症などの重大な全身疾患の増悪因子となることが、近年多くの研究により証明されている。しかも歯周病はギネスブックが認定する「世界で最も患者数の多い疾患」であり、日本人の歯周病患者も高血圧症患者に次ぐ患者数で、増加の一途をたどっている。健康サポート薬局をはじめとする薬局・薬剤師が国民へ口腔ケアを呼びかけ、歯周病の予防と早期発見にも注力して重症化する前に歯科医師へつなぐ役割を果たせば、国民の全身疾患の予防にも貢献することになる。100歳人口が8万人を超える我が国は、国民医費も増え続け45兆円に迫るが、薬剤師による口腔ケアの推進は医療費削減にも貢献できると考えられる。

一方、我々が実施した薬剤師の意識調査の結果では、口腔ケアへの対応を薬局薬剤師の役割と認識する割合が低く、口腔健康の維持増進を推進する上での課題として、約8割の薬剤師が薬剤師向け口腔関連教育・研修の不足を挙げた。

2015年から薬局店頭で唾液による口腔内環境チェックが実施できるようになり、本塾薬学部附属薬局でもサービスを開始している。我々が都内の歯科医師に対して当該サービスに関する意識調査を実施したところ、85%の歯科医師がこれを歓迎することが明らかとなった。さらに日本口腔ケア学会は2021年に薬剤師部会を設立し、薬剤師用認定制度の創設に乗り出すなど、薬剤師の口腔ケアの実用的な知識習得の支援を開始している。薬剤師が歯科医師と連携し、口腔ケアを通じて国民の健康維持増進に貢献する将来を期待する。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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