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【Researcher's Eye】
小澤宏之:手術におけるチームの形

2022/04/08

  • 小澤 宏之(おざわ ひろゆき)

    慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室教授
    専門分野/ 頭頸部外科学

昨年、日本耳鼻咽喉科学会は名称を改め、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会となりました。これから全国的に「耳鼻咽喉科」から「耳鼻咽喉科頭頸部外科」への標榜名の変更が行われるのではないかと思います。あまり知られていないことですが、一般的な病院に存在する「耳鼻咽喉科」は、脳と目を除く首から上のすべての疾患の外科的・内科的医療を行っています。このため、以前より海外では耳鼻咽喉科頭頸部外科と標榜していることがほとんどです。現実に即し、さらに世界の状況に合わせた名称にようやくなったということになります。その名称どおりに診療領域は多彩であり、それぞれの専門家がいますが、私は頭頸部外科全般を専門としていて、その中で頭蓋底外科をライフワークにしています。

近年、複雑化する医療の中で難易度の高い疾患に対する治療が求められていますが、高難度疾患ではさまざまな診療科が連携する必要があります。とくに外科手術において、複数の診療科が連携して手術を行う機会は数多くあります。そういった場合でも、手術操作を一緒に行うことはほとんどなく、空間的にあるいは時間的に異なる手術を行うことになります。例えば、耳鼻咽喉科頭頸部外科医が頭頸部がんを切除した後に、形成外科医が切除部の機能的な再建を行います。このように、時間的に前後しながら内容の異なる手術を行い、それぞれの診療科の技術を駆使して手術全体を成功に導きます。このような手術では、それぞれの診療科の間に手術全体についての深い理解が必要になり、コミュニケーションの濃さが手術成功のカギになります。

私の専門とする頭蓋底領域は文字どおり頭蓋の底に位置し、脳神経外科と耳鼻咽喉科との境界になります。この領域における手術治療では、前述の状況と異なり、耳鼻咽喉科頭頸部外科医と脳神経外科医が、同時に同じ場所を手術する状況が生まれます。異なるバックグラウンド、手術手技をもつ他の診療科医師と「阿吽の呼吸」で手術操作を行うには、お互いのより深い信頼関係が必要になります。現在の手術チームは長い年月をかけてそれを築いてきました。今後は、頭蓋底外科治療を担う人材の育成を行いながら、チーム医療が継続的に行えるシステムづくりに取り組んでいきたいと考えています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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