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【Researcher's Eye】
井澤智浩:24言語の語学講座

2022/02/21

  • 井澤 智浩(いざわ ともひろ)

    慶應義塾志木高等学校教諭(理科)
    専門分野/ 生物(水界生態学)

志木高校ではもう25年になるが、多言語講座を行っている。カリキュラム上の位置づけは何度か変わりはしたが、現在は文科省の定める「総合的な学習(探求)の時間」として2コマ、さらに希望者のみが受講する語学課外講座として2コマの合計4時間が設置されている。私の専門とは程遠いが、昨年この講座の担当をしたことで執筆する機会を戴いた。

始めた当初は19言語であって、それでも高校でこれほどの多言語講座がある学校は他になく、さらに5言語も増えて今では24言語となっている。受験生の志望動機にもこの多言語があがることも少なくなく、志木高の看板の1つとなっていることは間違いない。創設に尽力された当時の校長、故鐵野善資先生もさぞ喜んでいらっしゃることだろう。24言語は具体的には以下の通り。スワヒリ語圏・アラブ圏・オリエント・スペイン語圏・ビルマ・モンゴル・中国・アイヌ・ベトナム・インドネシア・ロシア・沖縄・タイ・インド・フィンランド・ドイツ・ポルトガル語圏・ペルシア語圏・トルコ・フランス・古典ギリシア・イタリア・古典ラテン・韓国。必ずしも外国語というわけではなく言語圏として分類している。したがって、アイヌ・沖縄が存在しているとも言えよう。

内容においても、語学のみを学ぶのでなく、文化・生活・歴史などその地域のバックグラウンドを広く扱う。そのため総合的な学習の時間のサブタイトルは「ことばと文化」である。中には言葉として現在はほぼ使われていないものもある。それを学ぶことに何の意味が? とつい思ってしまうのは素人の視点なのであろう。希望して学ぶ生徒たちは私より優に意識が高い。ツールとしての言語だけでなく、現代のニーズと言える「多様性」を学ぶという側面も大きい。一番新しく設置された言語はフィンランドである。志木高では、数年前からオーストラリア、台湾、フィンランドの高校と国際交流を始めた。そこで、フィンランド語がなかったため新規開設した。講師を見つけるだけでもそう簡単ではなかった。それを考えると、これだけの言語を設置し、その専門家がこれだけ集まっているというのは、まさしく「ことばと文化」を学ぶ環境としてはずば抜けていると言えるのではないだろうか。新しく始まった国際交流と連動して、この講座も次の新しいステージを目指す。その為にもコロナ禍の早い終息を願ってやまない。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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