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【Researcher's Eye】
江面篤志:研究の流行と方向性

2022/01/18

  • 江面 篤志(えづら あつし)

    金沢大学設計製造技術研究所特任助教・塾員
    専門分野/レーザ加工、表面改質

アジアの新興国が凄まじい勢いで経済成長を果たす中、我が国においては、経済に対する閉塞感は否めず、将来への漠然とした不安が影を落としている。大学などにおける研究活動でも同様で、著名な研究者や政府関係者より先進国や新興国と比較して研究費が不足しているという指摘がたびたび発信されているものの、抜本的な解決には至っていない。そのため、大学教員は日々、研究資金を獲得するために書類の作成に追われていることをご承知の読者も少なくないと思う。

研究テーマの中でも、研究費を獲得しやすいものとそうでないものがあり、最近だと、SDGsに絡んだものや、AIやIoTなどのデジタル技術、小生の専門である生産工学であれば3Dプリンタやデジタルツイン関連のものなどが採択されやすい傾向にある。これらの研究テーマはSociety5.0を推進する重点テーマとして、内閣府が定める科学技術基本計画に列挙されている。乱暴な言い方をすれば、政府主導の流行である。そもそも、IoTやDXなど現在の流行語は、約20年前に流行した「ユビキタス」という単語が変遷したものと言っても差し支えないだろう。その時代に合わせて語句を変えることにより、あたかも新しい取り組みであると思わせるやり方は、なんともお役所らしいと言える。

こうした流行に乗るかどうかは当然、研究者本人次第である。自身の興味・本能に従って独自路線の研究に突き進むことも大切であろう。しかし、その路線が、社会や企業が求めるものでない、いわゆるマイナーな分野であった場合には、研究資金の確保が現実的な問題として降りかかってくる。とくに駆け出しの研究者にとってこの問題はクリティカルであり、歩み始めた研究者ライフの成否を左右することになる。

と、ここまで偉そうに書かせていただいたが、小生自身、金属3Dプリンタの本格普及を目指した研究に取り組んでおり、多少なりとも流行りに乗っかっている状態である。研究費獲得のため、日々書類作成に精を出しているが、なかなか思うようには進んでいない。研究者を取り巻く環境が将来的にどのように変わっていくか想像できないが、学生時代の恩師から頂戴した「継続は力なり」という言葉を胸に、自分の研究の成果がいつか実用化され、社会の発展に寄与できるよう精進していく所存である。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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