三田評論ONLINE

【Researcher's Eye】
塩田琴美:パラの聖火を灯し続ける

2021/12/25

  • 塩田 琴美(しおた ことみ)

    慶應義塾大学総合政策学部准教授
    専門分野/リハビリテーション科学

みなさんは、東京2020パラリンピック競技大会はご覧になりましたか。COVID-19感染拡大下でもあり、開催にあたっても色々な意見や考えが交錯した大会であったと思います。これまで障害者のスポーツ活動の促進に取り組んできた一個人としては、競技の舞台だけでなく開閉会式などフィールド内外で一緒に活動してきた選手や仲間の活躍を見られて嬉しいひと時でもありました。

一方で、私が現在注力しているのは、こうしたアスリートだけではなくスポーツの参加機会が少ない、おもに重度障害者や医療的ケアが必要な方々を対象としたスポーツ活動の促進です。とくに、パンデミック下において、重度障害者では外出するにも命の危険に晒されるリスクが高く、地域での活動の場や参加できるコミュニティが少ない障害者はますます閉じこもりがちになりやすいのです。さらに、外部からの支援も受けづらいなか、支援者側の負担も大きくなります。

そこで、私は長引く自粛生活のなかで、重度障害者や支援者の心身の維持・向上や社会的な孤立化を予防するために、オンラインでのスポーツイベントの開催を続けています。研究会の学生も交え、試行錯誤をしながらも運動機会づくりに励み、回を重ねるごとにオンラインの良さを生かしながら楽しめるイベントとなってきました。オンラインではベッド上の方でも参加が可能であり、地域を超えた多様な参加者が繫がることができます。さらに、自閉症のお子さんでも自宅から普段の生活と変わらない環境で安心してスポーツに参加できることや、家のなかで気軽に取り組めて習慣化しやすいことなど、新たな気づきもありました。

私たちのこうした活動はよくスポーツのなかで「支える」という立場にあてはめられますが、実際は自分が楽しんだり、何かそこに価値を感じて関わっている人の方が多く存在しているように思います。参加者のほとんどは、声に出して「楽しい」と伝えることや感情の表現をすることも難しい方です。しかし、彼らの「心の目」はしっかりと私たちを見つめ、いつも私たちに新しい視座を与えてくれるのです。私は、そんな彼らから受けるエネルギーをスポーツの力に乗せ、パラリンピック後も次の成果(聖火)に繫がるようにチャレンジをし続けたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事