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【Researcher's Eye】
朝倉敬子:健康的な食事とは?

2021/12/17

  • 朝倉 敬子(あさくら けいこ)

    東邦大学医学部准教授・塾員
    専門分野/栄養疫学、予防医学

ヒトの食事を詳細に記録し、食事と健康の関連を考える研究をしている。そう言うと凝った料理でも作っているのかと思われるが違う。食事の研究を始めたのは、忙しい中でも最小限の努力で最大限健康に暮らしたいからであり、同じことを考える人は多いと思う。現在心がけているのは、①減塩、②可能な範囲で精製度の低い穀類を選ぶ、③低脂肪牛乳を1日にコップ1杯程度飲む、である。

日本人はほぼ全員食塩を摂り過ぎている。食塩過剰は高血圧や胃がんなどの危険因子で、多くの人にとって減塩は好ましい。しかし、高齢で十分に食べられない方に減塩を勧め、さらに摂食量を減らすのは問題だろう。白米や白いパンでなく胚芽米や分(ぶ)づき米、全粒粉パンなどを選ぶと、食物繊維やカリウムの摂取量を増やせる。食物繊維は各種生活習慣病予防に効果があるが、足りていない日本人が多く、摂取を心がけると良い。一方で、米には健康に悪影響のある重金属が少ないながら含まれ、かつ精製度の低い米ではその量が多いとの報告もある。牛乳はカルシウムの良い摂取源でビタミンやたんぱく質も含む。しかし、脂肪含有量、とくに心血管疾患の危険因子である飽和脂肪酸が多く、たくさん飲めば良いわけではない。低脂肪乳が選択できるならその方が良いだろう。

結局ややこしいじゃないか! と思った方、正解である。単一の食品で絶対に健康に良いものはない。一つの食品には複数の栄養素が含まれ、それらのうちには多く摂った方が良いものも控えた方が良いものもある。一食品に頼って健康を維持するのは難しい。逆に、特定の栄養素不足(過剰)解消のために選択できる食品は複数ある。カルシウムを摂るには小松菜や豆腐を食べても良い。この双方向性の入れ子構造を理解すると、巷にあふれる健康情報に振り回されなくなる。

で、健康的な食事とは何なのか? 絶対的に良い・悪い食品は無く、いつも何らかの不足や過剰の可能性があるなら、さまざまな食品を組み合わせてリスク分散するのが良いだろう。よって多種類の食品摂取を勧めるという意味で1汁3菜やら1日30品目やらといった言葉は正しいが、実行は難しい。さまざまな調査研究を実施する中でたどり着いた、私なりに最小限の努力で最大の益を得られそうな心がけが、今のところ冒頭で挙げた3項目である。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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