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【Researcher's Eye】
松川昌平:流れの中の建築

2021/10/21

  • 松川 昌平(まつかわ しょうへい)

    慶應義塾大学境情報学部准教授
    専門分野/建築デザイン、アルゴリズミックデザイン

最近、原始的な方法で建築をつくるYouTube動画にハマっています。彼らは建築をつくる以前に、土を掘り、粘土で炉をつくり、河原から鉄鉱石を集めてきては、炉で製鉄し、ノミやノコギリなど木材を加工する道具をつくるところから始めます。また、近くの川から水を引いたり、雨水を集めたり、汚水を濾過したり、上下水などのインフラも自ら構築していきます。

われわれは現在、蛇口をひねれば水が飲めるし、トイレのレバーを下げれば汚水が流れていきます。Amazonで注文した商品は翌日に手元に届きますし、ゴミ置き場に出したゴミはいつの間にか回収されています。建築はそのようなさまざまな「流れ」が通り抜ける「器」です。しかしわれわれは普段、建築への入力以前と出力以後の流れをあまり意識することはありません。

また建築は、植物由来の木や鉱物由来の土や石や金属などでできています。そのような「器」としての建築もまた、永い時間でみれば自然の物質循環の「流れ」の中にあります。しかし、われわれの時間感覚では木や土が循環する流れを容易にイメージすることはできません。

原始的な方法で建築をつくるYouTube動画は、そのような不可視の「流れ」を可視化してくれるいい教材です。「器」としての建築を構成する物質も、建築を通り抜けていく物質やエネルギーも、すべては「流れ」の中にあるのであれば、われわれができることは、建築を取り巻く流れを知り、その流れ方を少し変えることだけである、という当たり前のことを教えてくれます。

私は、2014年から現在に至るまで、SFCに隣接する未来創造塾βビレッジの建築群の設計に携わっています。そこではSBC(Student Built Campus)と銘打って、学生(教員、職員、学生、OBOGすべてが学生)自らが自分たちのキャンパスを自分たちで創ることを試みています。

SBCには7つの活動指針があるのですが、その1つに「完成させない、試行錯誤し続ける」という指針があります。未来創造塾βビレッジでも、建築を取り巻く流れを知り、その流れ方を少し変えることを試行錯誤し続けたいと思っています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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