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【Researcher's Eye】
奥山靜代:塾生とヨガに親しむ

2021/09/02

  • 奥山 靜代(おくやま しずよ)

    慶應義塾大学体育研究所准教授
    専門分野/運動生理学、ヨガ

ヨガをする人もしない人も、ヨガと言えば多くの人が身体を使って「ポーズ」をすることを思い浮かべます。いったい何のためにポーズをとっているのでしょうか。

ヨガの歴史を辿ると、紀元前2500年ごろ、モヘンジョダロ遺跡からヨガの座法を組んで瞑想する人を刻んだ印章が発掘され、この時代がヨガの起源ではないかといわれています。その後、紀元前200年ごろ、教典「ヨガスートラ」が著され、「ヨガとは心のはたらきを止滅することである」と定義されました。

座法を組んで瞑想し、穏やかな心でいることを目的に始まったヨガですが、精神を集中しようとすればするほど雑念が湧いてくるもの。心の動きを止めるまで集中を深めることが難しいことから、動きの要素を入れた「ポーズ」を行うようになったといわれています。単なる座法が、動きのある「ポーズ」へと進化したのは、身体を動かすことで、より簡単により意識的に瞑想を深めていくことができると考えられたからです。

そして瞑想とは、普段外側に向いている「今、この瞬間」の感情や思考を意図的に自分の内側に向け、集中が深まった状態を言います。目や耳から入ってくる刺激や、こうでないといけないといった感情など、私たちは日々多くの情報にとらわれていますが、それらを一旦止めて自分の内面を見つめます。そうすることで、不安に襲われない強い心がつくられ、安定した精神状態が生まれるのです。

私は日吉・三田キャンパスでヨガの授業を担当しています。授業の初回に「身体が硬い」「ポーズを上手にできるか」と心配する塾生が少なくありませんが、ヨガとは本来、「心の安定」を目指すことが目的だということを、たびたび塾生に伝えます。ヨガの本質に触れることで、塾生たちの意識は授業を重ねるごとに少しずつ変化していきます。穏やかさ、優しさ、冷静さなどが徐々に身につき、授業前の心の不穏や感情のムラに自ら気づき、その感情をコントロールしようと思うことができるわけです。それがヨガの効果であり、ヨガの最大の魅力なのです。

ヨガの授業を通して塾生たちの心身の安定に一翼を担えればと思っています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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