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【Researcher's Eye】
古川良明:私の漫才的思考回路

2021/08/27

  • 古川 良明(ふるかわ よしあき)

    慶應義塾大学理工学部教授
    専門分野/生物無機化学

新ネタに期待しながら、録画した漫才番組を見るのが毎日のささやかな息抜き。三つ子の魂百までとはよく言ったもので、お笑いと六甲おろしが刷り込まれた典型的?な大阪人の私には、何でも「オチ」があるだけで気が晴れる。自然なツカミで客を引き込み、ボケとツッコミを交えながら話の流れを整え、最後にオチで締めくくる。大笑いしながらも、漫才の高い論理性を思い知り、感心のあまりにため息が出る。

私は金属タンパク質の機能に魅せられた基礎研究者で、残念だが漫才師ではない。でも、研究は漫才とよく似ている。実験に明け暮れた学生時代、自慢の結果を論文にまとめ、研究室の先生に意気揚々と添削をお願いすると、いたるところに“So, what?” と赤字で書かれた原稿とともに「で、何がオモロイん?」の一言。

初めは怒り心頭だったが、自分の研究で何を主張したいのか説明できないことを見事に見透かされていた。そう、私の原稿には巧いツカミもなければ、読者を納得させるオチもない、ただのレポートだったのだと気がついた。

それ以来、得られた実験結果をもとにして、ツカミとオチを考えてから、漫才のノリで論文を書くように心がけている。もちろんボケたつもりはないものの、自分の書いた内容に自らツッコミを入れることで、自然と原稿が推敲され、頭の中が意外とよく整理されていく。その後は、査読者からの強烈なツッコミにうまく切り返すことができれば、論文は学術誌に掲載されて世に出回る。しかし、ここで満足してはいけない。私の論文は、どれだけの「笑い」を取ったのだろうか? つまり、他の研究者からどれだけ引用されているのかが私には最も重要な成果なのだ。論文の内容を名指しで批判されたこともあるが、反響がないより俄然やる気がでる。

一方で、「あれだけ苦労したのに引用回数が1ケタ?」と、さすがに凹むこともある。きっといつかはわかってくれるはずと期待するのは、売れない漫才師の思いと同じかもしれない。深刻に考えすぎるのはよくないが、諦めたらすべてがおしまい。査読者や審査員からの厳しいツッコミにも、図太く落ち(オチ)ついた対応ができれば、笑いとともにうまくいくはず。客席から大爆笑をかっさらう姿を想像しながら、今日も私はキーボードを叩く。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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