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【Researcher's Eye】
田口 敦子:互助のマッチングシステム

2021/06/22

  • 田口 敦子(たぐち あつこ)

    慶應義塾大学看護医療学部教授
    専門分野/地域看護学

あらゆる研究領域でデジタル化やICT化への関心が高まっている。私の専門とする公衆衛生看護学でも同様であり、4年前から私自身も山形県川西町吉島地区のNPO法人きらりよしじまネットワークと共同し、ICTを住民の生活支援や健康管理に役立てられないかと模索している。きらりよしじまネットワークは、全国でも珍しい地区の全世帯が加入する自治会組織である。山形県川西町は、山形県の南部に位置し、冬場は雪かきに追われる豪雪地帯である。現在の人口は約1万5千人、高齢化率37.3%。20年前から年々人口減少、少子高齢化が進み、自治会機能が形骸化し成り立たなくなった。そこで、地域住民が世代を超えて協力・連携でき、地域資源を集約・活用して成長を促すことのできる組織に再編することを目指して、自治会組織を法人化させた。前置きが長くなったが、吉島地区では、今後も少子高齢化、マンパワー不足が深刻になることを鑑みて、地域課題の解決にICTを活用できないか検討している。

吉島地区は、都市部よりはまだ近所づきあいは行われている方だと思うが、それでも以前よりは減っており、近所同士の助け合いも少なくなった。そこで、現在考えているのが、ICTを活用した互助のマッチングシステムである。今のところ高齢者を中心としたものだが、ゴミ捨て、通院の付き添い、買い物、雪かき等、ちょっとした生活支援を、手伝ってほしいという人と、手伝ってもよいという人をマッチングする仕組みづくりを画策している。手伝った人の対価は地域通貨やポイント制度で賄い、自分や家族に助けが必要になった時に使える。これらの仕組みをICT化することで、吉島地区がふるさとである都市部で働く人も、地域活動に参加しやすくなることも期待できる。しかし、調べてみると同様のシステムを考えている自治体はいくつかあり、様々な要因によってうまくいっていないところも多いようである。これまでのご近所同士の助け合いは、顔の見える信頼関係から成り立っており、その上で重要なのは「大変そうだ」「自分も同じ経験がある」等の「共感性」が動機付けになると言われている。日常的に付合いのないオンラインコミュニティで高齢者支援に関する「共感性」はどの程度引き起こされるものだろうか。まだ検討すべき点はありそうである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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