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【Researcher's Eye】
樽井 礼:留学と人のつながり

2021/06/10

  • 樽井 礼(たるい のり)

    ハワイ大学マノア校経済学部教授・塾員
    専門分野/環境・エネルギー経済学

大学での業務の一環として、私は国際連携、留学や研修プログラムの受け入れ・促進をここ数年ほど担当している。最近は学務を通じて人と人の(ときには国境を越えた)つながりの大切さを再確認することが多く、励まされている。

学生や研究者の渡航は、コロナ禍に伴い著しく制限されている。昨春以降、交換留学や訪問学習プログラムは残念ながら軒並み中止・延期となった。国際教育交流の再開は難しいという危惧感が同僚の間でも漂った。

そのような悲観的な状況の中、縁があり複数の日本国内提携大学から「バーチャル研修プログラム」の提供を依頼された。大学での教育・学生交流や州内関連施設の見学を通じ、ハワイの歴史・文化や環境、持続可能性課題について学習するプログラムは、過去に1〜3週間の実地研修というかたちで提供してきた。そのようなプログラムをオンラインで行うというのである。困難な国際交流を持続するには有効そうではあるが、そのようなバーチャルなプログラムがはたして日本の学生皆さんにとって魅力があるのか不安な中でのプログラム設計・実施となった。「みんなハワイは好きだと思うけれども、実際に行かないと意味がないと思われるのでは?」という懸念の声も内外から上がった。

私は同プログラムのオンライン教室に進行役や講師として参画したが、参加学生からは意外なほど肯定的な熱い声をいただいた。ハワイにおける再生可能エネルギー大量導入の背景や課題、地球温暖化に伴う海面上昇の経済効果など、日本も直面するような話題についての学習は興味深いようである。

多くの参加者はプログラム事後評価で他にも2点強調している。1つは、他大学の学生や教員に自分の考えを英語で伝えることの喜びである。普段は控えめな学生さんにもオンラインでの発言機会を確保できたことが、肯定的に評価された理由かもしれない。もう1つは、ハワイ大学の学生とのZoomを通じた対話の機会が非常に良かったということである。異文化を背景にした学生との交流は刺激があったようである。

半信半疑のまま提供したオンライン研修であったが、参加した日本の学生さんからは人とのつながりを保ち、そして広げる国際交流の大切さを再認識させられた思いである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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