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【Researcher's Eye】
ミツバチはじめました

2021/01/26

  • 中村 宜之(なかむら まさゆき)

    應義塾中等部教諭(理科)

6月、セイヨウミツバチを中等部の片隅で飼い始めた。理科の授業でのミツバチの生態研究の他、SDGsを意識した教育を進める中等部で、ミツバチを中心とした循環や持続可能な一例を作りたい。手探りの1年目は発見の連続だった。

生徒たちのはじめの質問は、「刺されないんですか?」。答えは、「刺されないんだよ」。ミツバチのような花蜂は狩蜂と違って、自分たちが脅かされなければ相手を刺さない。巣箱を開けて作業していてミツバチに警戒されることはあっても、攻撃されたことはない。ハチ=刺すという概念が少し変わる。社会性が高く、役割分担をして少し放っておいても自分たちで生きていく。最近は生徒や教員・用務員さんなどの協力でアンテナが広がり、様々な場所からミツバチの発見情報が届く。5階に相当する屋上にも飛んできているようだ。

夏の猛暑の中、ミツバチたちは羽で巣箱の中に風を送り換気する。しかし35℃を超える猛暑日が続くと女王蜂の産卵ペースが落ちた。地球温暖化による1℃の気温上昇がミツバチには大きく響く。コガタスズメバチの襲来と虫取り網による駆除の夏が終わり、過ごしやすかった秋が過ぎると、一気に寒くなった。ミツバチの動きが鈍くなる。慌てて巣箱に合う保温用のカバーを手作り。温度変化には本当に敏感である。

これらの試練を乗り越えたと思った頃、個体数が急激に減少することがあった。弱ったミツバチや死骸の観察、中等部周辺の昆虫の様子から原因は農薬だと推測した。移動半径が数kmに及ぶミツバチたちは、蜜や花粉のありかを仲間に伝える能力にも長けている。ミツバチを通して都会でも花の種類と数が多いことがわかる一方、普段の生活では見えない人間の影響が、小さな体のミツバチを通すと良く見えてくる。

これまでの経験を活かすべく、先日、巣箱周辺に花期の長い木の苗を植えた。今後も1年を通して蜜や花粉が多い草木を育てていく。目指す循環は①人間が出す生ごみ→②ミミズコンポストで液肥づくり→③草木の花を咲かせる→④ミツバチが蜜や蝋をつくり、群れが増える→⑤人間がその恩恵を少しいただく、というサイクル。また、集まる花粉の分析から周辺の花の種類を特定するなど、小さな目から見える都会の自然を生徒に伝えていきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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