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【Researcher's Eye】
コロナウイルスの衝撃

2020/12/19

  • 森 英毅(もり ひでき)

    ルーベン・カトリック大学消化器病トランスレーショナルセンター博士研究員・塾員
    専門分野/内科学(消化器)

今でも良く覚えていますが、その日は突然訪れました。「明後日(3月14日)の零時より、ロックダウンを行う」という内容のアナウンスが職場・大使館を通じてなされたのです。イタリアやスペインの状況がどうやら中国と違うようだという雰囲気はあったものの、3月12日のベルギー国内の新規コロナウイルス発症例は85名。とても危機を感じるような状況ではなかったのですが、蓋を開ければ、日に日に状況は悪化し、気づけばベルギーは世界最悪の致死率を計上するに至りました。結局医療崩壊に至らなかったものの、逼迫する情勢を受けて、私達家族は3月末より2カ月間、日本に一時帰国することに。6月からは子供の学校再開や研究活動の再開を受けて、再度ベルギーへ渡航し今に至ります。

現地のコロナウイルスに関するルールは厳しく、研究室、実験室、自分のデスクを利用するのも全て事前にウェブで登録を行う必要があります。それぞれの部屋の使用者上限が約半数に制限されているためです。更に登録を行うことで、濃厚接触者の割り出しが容易になるというメリットがあります。レストランや公共施設利用時も必ず個人情報の登録が必要です。大学病院の臨床研究は徐々に再開されていますが、リスクを最小限にするために、厳しく制限されています。私達の臨床研究は食道カテーテルを用いるものが多いのですが、臨床試験の安全性確保を証明するため、食道へのカテーテル挿入が飛沫発生に与える影響を検証しています。ベルギーは非常に大きな犠牲を払う結果となった一方で、いかにコロナウイルスを抑えていくかについて厳しいルールと段階的な緩和を通してコントロールを行っています。

ヨーロッパでは、コロナウイルスはまだまだ深刻な問題であり、今まさに大きな第2波に直面しています。変化した社会がどこまで第2波の被害を抑えられるかが注目されます。

このように私がベルギー・日本の双方で経験したコロナウイルス感染拡大時の社会変化について、一内科医の視点から電子書籍『コロナパンデミック:世界最悪の致死率のベルギーからの若き内科医のレポート 前・後編』として執筆しました。当地の社会変化やルールの変遷、日本との比較が多くの方の参考になることを祈念しています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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