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【Researcher's Eye】
コロナ禍における医療機関の連携

2020/08/27

  • 高久 玲音(たかく れお)

    一橋大学大学院経済学研究科、同国際・公共政策大学院准教授・塾員
    専門分野/医療経済学

専門が医療政策・医療経済学ということもあり、現在のコロナ禍には関心を持っている。東京都の医療政策に対してデータ解析などの支援を行っていることから、都内で開催される医療政策関連の会議にも、学務と研究の合間に出席している。現場で働かれている医師の話を聞いてみると、新しい問題がいろいろな形で突きつけられているようにみえる一方で、古くからある問題が問われている面も大きいことに気づく。

キーワードは「医療機関の連携」だ。この古くから繰り返し指摘されてきた課題 ── 実は2020年の今でも「どのように地域の医療機関が連携してコロナ患者に適切な医療を提供するか」という問題が繰り返し話し合われている。例えば、3月からの第1波では、軽快したコロナ患者が高機能の大病院にいても、近隣の民間病院は感染拡大や他の疾患の患者から忌避されることによる減収の恐れから、受け入れを拒否していることが指摘されていた。

なぜ、医療機関の連携が難しいのだろうか。1つの構造的な要因は勤務医の長時間労働だ。連携が不十分で長時間労働になるのか、長時間労働だから連携が不足するのかは難しいところだが、両者は不可分の関係にある。実際に、時間的余裕すらない勤務医たちに、様々な調整にまで目を配った形での「連携」を期待することは難しい。

ただ、今はどうだろうか。本稿を執筆している7月6日現在、長年の懸案事項だった不必要な救急搬送は目に見えて減り、予定手術は軒並み延期され、病院外来の混雑もない。結果として、多くの病院ではコロナ禍による減収が予想されている。裏返せば、時間的には余裕のある医師も少なくないことが推察される。もし連携の最後のボトルネックになっているのがコロナ患者の受け入れに伴う減収なのであれば、政府は迅速に損失補策を講じるべきだろうし、本稿執筆時点でもそうした声は大きい。コロナ患者の受け入れにインセンティブを付与することで、これまで不十分だと言われてきた医療機関の連携が新しい形で進展する可能性もあるだろう。地域での機能分化や連携が進み、医療機関の逼迫が緩和されれば、その分だけ国民も経済活動を再開できる。「古くからある問題にいかに向き合うか」がコロナ禍でも求められている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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