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【Researcher's Eye】
医療経済学と健康経済学

2020/07/28

  • 後藤 励(ごとう れい)

    慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授
    専門分野/健康経済学・医療政策

私は医学部を卒業して医師になりましたが、病院勤務は研修医の2年しかしていません。現在は経営管理研究科、ビジネス・スクールで教えています。このように自己紹介をしますと驚かれることがあります。

実家が開業医をしており、医療は家業と言えます。子供の頃、月に1度の恒例のお手伝いは、カルテや保険診療の医療費を請求するための書類(レセプト)を整理することでした。当時、「壽」という印のある高齢の患者さんからは、お金をもらわずに診療していました(昭和50年代の話です)。では、我が家は誰からお金をもらっているのだろう、他の自営業のうちとはずいぶん違うな、そんな素朴な疑問を感じたのを覚えています。

再び医療とお金や制度との関係に興味が生まれたのは大学時代でした。同じ大学の経済学部に医療経済学専門の先生がおられ、大学院のゼミを聴講しました。経済学はお金のことを考えるだけではないということをすぐに知り、医学部とは全く違った観点で医療を考えるのが面白いと感じました。大学院の経済学研究科へ進学以来、経済・経営系の部局に属して教育・研究を続けています。

医療経済学というと、医療費のことや医療機関経営の効率化を研究するというイメージを持たれるかもしれません。こうした医療サービスの分析も重要なのですが、医療経済学のことを英語ではHealth Economics といいます。直訳すると健康経済学です。この呼び方からは、私たち消費者が求める健康を研究対象の中心とし、医療を健康改善の手段の1つだと考える姿勢が伝わってきます。

もちろん、健康改善のために医療サービスが最も効果的なときも多いでしょう。このとき私たちは消費者です。しかし、運動や食事に気を遣うことや家族の看病や介護も考えると、自分や家族自身が健康を生み出している、つまり生産者であるとも言えます。専門的なケアとセルフケアを組み合わせ、積極的に健康を求めるのも私たちの1つの姿です。

昨年より健康マネジメント研究科委員も兼担させていただいています。ビジネスパーソンに加えて、医療者の方々と学ぶ機会も増えてきました。これからも専門的な医療と消費者の視点の両者から健康を考えていきたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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