三田評論ONLINE

【Researcher's Eye】
融合領域の開拓を目指して

2020/06/18

  • 宮田 昌悟(みやた しょうご)

    慶應義塾大学理工学部機械工学科准教授
    専門分野/ 再生医工学、生体物理工学

「君たちには開拓者であって欲しい」。これは私が大学院で博士課程に在籍していた当時に恩師からいただいた言葉である。私の現在の専門分野は工学分野と医学分野の融合領域に属する再生医工学やティッシュエンジニアリングと呼ばれる分野である。

大学に在籍する教育・研究者として40数歳を迎え、来し方を振り返るに、この融合領域を主専門分野とする私の研究者としてのスタートは、まさにこの恩師との出会いにあったと思える。当時、私は機械工学科の修士課程1年次に在籍し、今とは全く異なる発電所で使われるステンレス鋼の疲労特性や強度についての研究をしており、まさか血を見ると気が遠くなる性質の自分が医療分野に関わるとは露程も思っていなかった。だがしかし、である。忘れもしない修士1年を終えようかという3月のことである。当時の指導教員より突然、自分は某国立研究所に転籍することとなった、よってこの研究室はなくなるとの話を受けた。4月から修士2年になる私達学生に示された道は2つ、1つはこれまでと同じようなテーマで研究が続けられる同じ研究分野の研究室に転籍する道、もう1つは新しく着任する教授の研究室に転籍する道であった。新しく来る教授は機械工学科分野に身を置きながらも医工学と呼ばれる、2つの学問分野が交わる当時の筆者にとっては馴染みのない、さらには苦手な(と思っていた)医学との融合領域の研究をしている方とのこと。それまで進路選択では安定志向、保守的思考を常としてきた筆者にとっては今でも意外であるが、未知の分野であった再生医工学を専門とする恩師の研究室をなんだかおもしろそうだ、という理由だけで希望したのである。挙げ句には博士課程にも進学してしまった。まさに、このときの恩師との出会いと自身の進路の選択こそが今の自分に至るターニングポイントであった。

昨今の若者からは不安定な社会状況を反映してか、進路に安定を求める傾向があるように感じている。なんだか面白そうだ、ワクワクする、など好奇心や冒険心にただ従うだけの瞬間があることも人生を切り拓くことにつながるという、「開拓者」精神の一端でも拙稿から伝われば幸いである。もちろん筆者自身も「開拓者」精神を胸に教育・研究活動に邁進したいと思う。新たな融合領域の開拓を目指して。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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