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【Researcher's Eye】
「環境に良い」を考える

2020/05/21

  • 一ノ瀬 大輔(いちのせ だいすけ)

    立教大学経済学部准教授・塾員
    専門分野/ 環境経済学

2015年の国連サミットにおいて持続可能な開発目標(SDGs)が示された。環境を保全し持続可能な社会を築いていくことの重要性は、いまや多くの人々の共通認識となっている。しかし、何が環境にとって本当に良い行動なのかを考えることは意外と難しい。例えば最近、プラスチックごみが世界的な問題になっており、代替品の利用・開発等が進められているが、これらの中には、逆に環境問題を悪化させてしまいかねないものもあることが指摘されている。そのひとつが、プラスチック飲料容器のガラス瓶への置き換えである。ガラス瓶は洗って繰り返し使えるため環境に良いイメージがあるものの、プラスチック容器に比べて重いため、輸送の効率が低下し、環境負荷が増加してしまう場合があるという。

このように環境問題では「一見良いこと」と「実際に良いこと」の乖離が起きやすい。その背景としては、人々が生み出すモノやサービスが生産、流通、消費、再利用から廃棄までの過程で様々な経路を通じて環境に影響を与えており、全容の把握が容易ではないことがある。経路の複雑さゆえ、その内容をわかりやすく正確に周知することも難しい。また、多くの人が環境問題に関心を持っていること自体は望ましいものの、それが逆に問題を複雑にしている側面もある。関心があるからこそ環境に良さそうというイメージにも注目が集まりやすいが、時にイメージが一人歩きし、本当に環境に良いものは何かという議論が見逃され、意図しない結果をもたらす行動が選択されてしまうのである。

筆者自身は試行錯誤の途上とは言え、学部で環境経済学のゼミナールに所属して以来、人々が環境に負の影響を与える行動をとる誘因やその対策の効果を社会科学的に探究する研究に取り組んでいる。しかし実際に環境問題を解決するためには、その発生メカニズムや影響を科学的に検証する分野、人々の文化歴史性に迫る分野、関連する現場で従事する人々の知見など、様々な立場の専門的な見解を統合する必要がある。そのために対話をし、そこで導かれた見解を発信・共有するためのプラットフォーム作りも欠かせない。環境問題の解決には、問題の緻密な分析、その結果の発信と共有、そしてそれらに基づいた私たち1人ひとりの冷静な判断と行動が求められるのである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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