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【Researcher's Eye】
研究力のある薬剤師養成へ

2020/02/20

  • 中村 智徳(なかむら とものり)

    慶應義塾大学薬学部医療薬学・社会連携センター長、教授 専門分野/医療薬学

薬学教育は2006年4月より6年制となり、今年で14年目となります。この間、6年制教育を受けて薬剤師となった者は、この春卒業する学生で9代目となります。

当センターでは、薬学生と指導薬剤師間で行われる臨床現場での実務実習の円滑な運用に関わりつつ、より充実した実習の在り方を追求すべく様々な科学的検証を行ってきました。

近頃は薬学教育に限らず、従来の教育者主体のプロセス基盤型教育から、学習者主体の学習成果基盤型教育への転換が強く求められており、「何を習ったか(教えたか)」ではなく、「何が出来るようになったか」という学習者のアウトカムが問われる教育体系に変化しています。そこで当研究グループでは、どうすれば学生が実務実習で成功体験を得て「自己効力感」を高め、より高いアウトカムを得られるようになるか、教育手法や教育アイテムの観点から研究に取り組んでいます。

医学・薬学の領域では覚えることが非常に多く、薬剤師国家試験合格のために最低限覚えるべき医薬品数は500~600とも言われています。名称と薬効だけでなく、化学構造や物性、吸収・分布・代謝・排泄の仕組み、作用メカニズムは当然説明できなければなりません。さらにその膨大な知識と経験を駆使し、医師の処方の適正性を一つ一つ監査したり、必要に応じて処方提案もします。また近年では、薬剤師自らも薬の専門家の立場で患者さんの状態をチェックし、他の医療スタッフと情報共有することで、患者さんの有効で安全な薬物治療に参画しています。

このように、医学知識・医療技術の急激な高度化のなかで、薬学6年制教育が開始され、すでに10年以上が過ぎてしまいました。そろそろ日頃大人しい薬剤師が真の実力を発揮しなければならない時期が来ていると思います。

医療系学部での教育で重要視されつつあるキーワードとして、「医療人プロフェッショナリズム」があります。しかし、薬学教育のなかにはまだ、薬剤師の医療人プロフェッショナリズムとは何かについてのコンセンサスは得られてはいません。そこで私たちは、高い課題解決能力すなわち「研究力のある薬剤師」であることが薬剤師のプロフェッショナリズムとして重要な一面であると仮説を立て、その評価方法および評価ツールの開発と検証にも挑戦しています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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