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【Researcher's Eye】
世界の最先端の研究現場で「天命」を考える

2020/01/17

  • 南宮 湖(なむぐん ほう)

    アメリカ国立衛生研究所Visiting Fellow・塾員 専門分野/呼吸器感染症

私は、12年程前に医学部を卒業後、臨床の研鑽を積む傍ら、呼吸器感染症の研究に携わってきた。現在は、肺非結核性抗酸菌症という慢性に進行する呼吸器感染症の病態に迫るべく、2年前からワシントンDC郊外にあるアメリカ国立衛生研究所(NIH)で研究を行っている。NIHはアメリカ政府の直属組織で、世界最大の医学研究所でもある。この研究施設からこれまで多くの研究業績が生まれている。

NIH長官のフランシス・コリンズは、国際ヒトゲノム計画の代表を務めた著名な遺伝学者で、嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)という呼吸器感染症を繰り返す不治の先天性疾患の専門家でもある。バンドマンとしても有名で、よくNIHの敷地内でバンド演奏をしている。彼は、30年前に嚢胞性線維症の原因遺伝子が見つかった際、この発見をもとに嚢胞性線維症に苦しむ患者さんがいつの日か自由に呼吸することを夢見て、〝Dare to Dream〟というオリジナル曲を作曲している。そして、30年の時が経ち、近年、研究知見に基づいた新薬が相次いで登場し、嚢胞性線維症の患者さんの治療成績が急速に向上している。まさに〝Dare to Dream〟から〝Dreams Come True〟を体現しつつある。コリンズが、患者さんの集会で、自らの演奏で患者さんと一緒に〝Dare to Dream〟を合唱する光景を動画サイトで見ると自然に熱い感情がこみ上げてくる。

一方、ここNIHで多くの優秀な研究者の中で日々過ごしていると、「自分がどこまで研究に貢献できるのか?」また、「自分のオリジナリティーのある研究は何なのか?」という、いわば研究者としての「天命」を考えさせられることも多い。福澤先生は「努力は天命さえも変える」という趣旨の言葉を残されている。自分自身は「天命」を変えるほどの努力はまだまだ足りないが、ただ、世界の最先端の研究現場に身を置き、日本・世界からやって来た多くの研究者と友や仲間になることで、研究者としての「天命」を少し理解できたようにも感じる。実はこれが留学の最大の収穫なのかもしれない。自分が取り組んでいる肺非結核性抗酸菌症に苦しむ患者さんがいつの日か病気を忘れ自由に呼吸できることを〝Dare to Dream〟しながら、世界の仲間と共に、少しでもオリジナリティーのある研究を進められればと思う。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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