三田評論ONLINE

【Researcher's Eye】
制作活動とその影響

2019/12/26

  • 三浦 弘(みうら ひろし)

    慶應義塾幼稚舎絵画科教諭 専門分野/ 日本画

普段、日展を中心に日本画の制作活動を行っている。今夏、日本橋三越で個展の機会を頂いた。幼稚舎で授業を行い、制作は帰宅後夜間に行う。睡眠不足の日々が続くが、幼稚舎生が活きの良さで私の目を覚ましてくれる。こんな生活が十八年も続き、時には学校が忙しくて制作時間が思うように取れず、発表出来ずに苦汁を嘗めることもある。好きなことを仕事にしていて幸せだ。と言う人もいるが、趣味でなくプロとして行っていると苦しいことの方が年々多くなる。

これまで展示をしても児童に告知しなかったのは、グループ展で他の出品者に迷惑を掛けたくない思いと、教師としての評価より作家としての評価を優先させるためだ。しかし、個展では幼稚舎新聞にも載せて頂き、多くの児童が来てくれた。教員としての私の側面しか接していない児童が、作家活動をする姿を見ることで、授業の雰囲気も良くなる。

制作を続けることが、授業を行う上で何より大切だと思った時がある。学校が忙し過ぎて制作が出来ない期間が続いた時に、児童の絵のココを直せば良くなるが、何と言って伝えれば良いのか、適切な言葉が出なかった。それまで無意識に出ていた言葉が出なくなったのだ。教えていない専門用語を使っても、絵を前にすると児童には伝わる。不思議だが、そういうものだ。現役で作家活動をしている者と、そうでない者とが伝える場合、言葉にならない無数のことが伝えられると思っている。あの時以降、出品出来ない展示があったとしても、制作しない期間を設けてはいけないと心に留めている。

今回の個展には卒業生も多く来てくれた。卒業以来、久しぶりに会う者や、婚約者を伴い紹介してくれた者もいた。

幼稚舎の魅力は、卒業後の繋がりにあると感じる。二年生以外の全学年を受け持っている私は、担任に次ぎ長い期間接している教員となるので、私の役割は、退職した担任のクラスや、担任と合わなかった児童と学校との繋ぎ役だと思っている。会期中は毎日卒業生と食事に行き、その後も毎月会っている者もいる。この仕事のありがたいところだ。教え子の中に美術関係に進む者も意外と多く、繋がりも残っていたりする。プロとしての道を歩み活躍している者もおり、頑張らねばと背中を押されている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事