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【Researcher's Eye】
研究・社会・学生・家族

2019/11/28

  • 川原 繁人(かわはら しげと)

    慶應義塾大学言語文化研究所准教授 専門分野/音声学・言語学

私の専門は音声学・言語学だが、専門外の人たちからは「どんな研究をしているのかさっぱり分からない」と思われがち。こんなことを言うと同僚から怒られるかもしれないが、学界内から社会へのアピールも十分ではないと思う。そんな意識から、私は「言語学者よ外に出よう!」をモットーに研究・教育・アウトリーチ活動を行っている。

この旗印を掲げ、4歳の娘の指導の下、プリキュアの名前の分析を行った。『フレッシュプリキュア』には、「ピーチ」と「ベリー」が登場する。これらの名前の始めを発音するとき、自分の唇がどう動くか感じてみると、「ピ」も「ベ」も両唇が閉じることが分かる。『魔法つかいプリキュア!』には、「マジカル」と「フェリーチェ」。「マ」も両唇が閉じ、「フェ」は両唇が丸まる。このような音を「両唇音(りょうしんおん)」と呼ぶ。体系的に分析すると、プリキュアの名前は両唇音で始まる確率が統計的に高い。しかも、両唇音は赤ん坊がよく出す音で、生後9カ月の下の娘もぜっさん練習中。つまり「両唇音=赤ん坊=可愛い=プリキュア」とつながる。私にプリキュアを教え込んでくれた娘に感謝。

ポケモンの名前の分析も行った。濁音は「重い」という印象を与える。ある学生が「ポケモンって、それぞれの個体の重さが決まっています」と教えてくれた。ならば、名前に含まれる濁音の数と重さの相関を分析してみよう! すると、統計的に正の相関が認められた。この発見は、発表後すぐに世界中に広まり、今では英語など様々な言語でポケモン名が研究されている。国際学会も慶應で開かれた。身近な題材を使って分析すると、言語学をより多くの人に理解してもらえるかな?

学問と社会の関わりについてもう1点。ALSなどの神経性難病の患者様は病状が進行すると声を失ってしまう。その前に声を録音しておき、パソコンに入力された文を自分の声で再生する「マイボイス」というプロジェクトも手伝っている。授業で紹介した時、学生から「SNSで使うスタンプがあれば、コミュニケーションがより円滑になるのでは?」との提案。おかげで今ではスタンプ機能が実装されている。著作権フリーのスタンプを描いてくれた学生もいる。

どの事例でも、若い人ならではの発想が学問を進めてくれた。先生も学生や子供たちから多くを学んでいるのである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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