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【Researcher's Eye】
プロ経営者って......

2019/08/27

  • 牛島 辰男(うしじま たつお)

    慶應義塾大学商学部教授 専門分野/経営戦略論

企業の経営戦略を研究している関係で、経営の専門用語を使って文章を書いたり、話をしたりする機会は多い。そうした用語の中には、文字面と意味する内容のマッチングが絶妙で、多くの人に使って欲しいと思うものもあれば、どこか違和感があり、できれば使いたくない、ほかの人にも使ってほしくないと感じるものもある。後者の用語の中で、最近目にする機会の多いものに「プロ経営者」というものがある。この言葉が一般に意味しているのは、ある企業に入社し、昇進を重ねて組織のトップに立った生え抜き型ではなく、経営手腕を評価され、企業から企業へと経営者として渡り歩くタイプの経営者である。いきなりトップとして企業にやって来るという意味では、落下傘型の経営者ともいえる。

伝統的に、日本企業の経営者では組織内部での昇進を積み重ねてきた生え抜き型が圧倒的多数を占めるため、「プロ経営者」はマイノリティである。しかしながら、日本マクドナルドからベネッセに転じた原田泳幸氏、ローソンからサントリーに転じた新浪剛史氏、カルビーの再建で手腕を発揮した松本晃氏をはじめとして、こうした経営者の活躍が耳目に触れる機会が増えている。これは日本の企業社会に生じた注目すべき変化である。ゆえに、これら経営者を従来型の経営者と区別するために何らかの用語を当てることに、私はいささかなりとも異論はない。

だが、「プロ」経営者というのはいかがなものだろうか。誤解のないように言っておくと、右の三氏はじめ、「プロ経営者」と呼ばれる方々は間違いなく優れた経営手腕を持った企業経営のプロである。したがって、私の違和感は、彼らをプロと呼ぶことによるものではない。そうではなく、彼らのみを指し示す言葉に、「プロ」という本来すべての経営者に当てはまるべき表現を用いることに、強烈な違和感を覚えるのである。日本語のプロの対義語はアマ(アマチュア)、英語の professional の対語は unprofessional であるから、この用法に従うと、対概念である従来型の経営者を指し示す用語として含意されるのは「アマ経営者(unprofessional manager)」ということになる。これはかなり失礼な表現だと感じるのは、私だけではないだろう。より適切な用語が生まれ、普及することを強く願うものである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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