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【Researcher's Eye】
宇宙ビジネスと商法

2019/08/07

  • 笹岡 愛美(ささおか まなみ)

    横浜国立大学国際社会科学研究院准教授 専門分野/商法

「宇宙法をやってみませんか?」。10年ほど前、商法の研究者として大学に職を得てすぐに、学習院大学の小塚荘一郎先生からお誘いを受けた。長い間、宇宙活動とは国を主体とする活動であり、「宇宙法」とは国際法の一領域を意味していた。民間主体が宇宙活動に参入するようになって、商法(ビジネス法)の専門家が宇宙法にかかわるようになった。小塚先生は、「宇宙ビジネス法学」の第一人者である。筆者は、トラックや船舶による運送取引法について研究していたため、人工衛星を宇宙空間に運ぶ活動も延長線上にあるだろうということで、お声をかけていただいたようである。以来、宇宙ビジネス(宇宙旅行、打上げサービス、民間射場運営など)にかかわる法律問題について研究を続けている。

先日は、ニュージーランド宇宙・高高度活動法(Outer Space and High-altitude Activities Act)について調査をするため、ニュージーランド・ウェリントンに出張をしてきた。ニュージーランドは、国家よりも先に商業宇宙活動がおこなわれた象徴的な国である。宇宙・高高度活動法には、申請にかかる手間やコストの削減など、宇宙ビジネスをバックアップするための仕組みが設けられており、宇宙産業の振興に対して法制度が果たす役割を示す例として、非常に参考になった。

ここ数年、日本でも、宇宙活動法の成立、イプシロン4号機による衛星7機の打上げ成功、インターステラテクノロジズ社によるサブオービタルロケット・MOMO3号機の打上げ成功など、宇宙の商業化にかかわる明るいニュースが続いている。同時代に生きる一市民として、新たな産業が発展していく姿をリアルタイムで目撃できることに、この上ない喜びを感じる。また、法学者としては、同時代の社会において生じる法的課題に応え続けなければならないという使命感を感じている。幸いにも、我々が生きる時代は、人やモノを宇宙空間に輸送することができる科学技術の進歩を経験している。人工衛星を用いたさまざまなサービス(GNSS、リモートセンシング、衛星通信)によって恩恵を受けている。宇宙科学技術をさらに進歩させるために、その商業化は不可欠なステップである。法的に議論が尽くされていないということが、新規産業の発展を妨げることはあってはならない。常に自覚をもちながら、これからも研究を進めていきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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