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【Researcher's Eye】
化学者に必要な要素

2019/07/16

  • 根岸 雄一(ねぎし ゆういち)

    東京理科大学理学部第一部応用化学科教授・塾員 専門分野/無機化学、物理化学

「化学者になる人ってみんな小さい時から勉強が良く出来たの?」私は化学の分野で長年研究を続けていますが、正直、私以外の化学者はみんな、本当に頭が良いです。ですので、化学者の人達はみんな、小さな時から勉強が良く出来たのだろうと思っています。「それじゃあ、勉強が良く出来れば化学者になれるの?」 こちらに関しては、必ずしもそういうわけではないように思っています。

化学の分野でも、机上の解析能力がものすごく有利に働く分野もあります。例えば、理論化学や物理化学の分野では、分野で共通する命題の解決に対して、誰が一番早く辿り着けるか(理解できるか)を競うことが多々あります。このような分野では、勉強が良く出来ること、特に、数学や物理が良く出来ることは、非常に有利に働くように個人的には感じています。

一方、同じ化学の分野でも、無機化学や有機化学は、もの創りの分野であり、これらの分野では、新しい化合物や材料を生み出すことを目的としています。勿論、分野で共通の命題は存在するとは思いますが、それぞれの研究グループは多くの場合、各グループ毎にオリジナルな、異なる出口を目指して研究を行っています。こうした分野では、ちょっとしたアイデアや遊び心で、新奇で有用な化合物や材料を生み出せます。また、実験の失敗から、新奇な化合物や材料が生み出されることも多々あります。勿論、最低限の基礎学力は必要だと思います。ただ、これらの分野では、机上の解析能力より、むしろ、豊かな発想を持つことが成功への重要な要素になっているように個人的には感じています。

実際、無機化学や有機化学の実験はよく、料理に似ていると言われます。良い料理人には、必ずしも、机上の解析が得意な人だけがなれるわけではないでしょう。同じように、机上の解析だけを得意とする人が必ずしも良い無機化学者や有機化学者になっているわけではないようです。日本が今後も世界で活躍し続けるためには、新たな技術と製品の創出が不可欠です。無機化学や有機化学は、それらの創出と深い関わりのある分野です。豊かな発想力・想像力をもつ若者には、是非ともチャレンジして頂き、将来の日本を支えてもらえたらと願っています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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