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【Researcher's Eye】
大学人のメリットは自由度

2019/06/13

  • 山田 浩之(やまだ ひろゆき)

    慶應義塾大学経済学部教授 専門分野/開発経済学・応用計量経済学

大学卒業後、青年海外協力隊としてザンビアの田舎の中高校に一教員として2年間派遣された。当時のザンビアは経済が停滞し、深刻な貧困が蔓延していた。そんな中、週30時間以上の授業をこなし、バイクで25キロ離れた街まで行かないと生活物資が揃わない生活は大変だったが、若さゆえ、何でも吸収しよう、経験しようという意欲が強く、まさに現在の私のルーツになる時間であった。だが、教育現場ではトップダウンの政策がいかに理不尽であってもそれを反映させなくてはならず、「世の中は上からの政策が改善しなければ何も変わらない」「現場の一教員の立場ではあまりにも無力感が大きすぎる」と強く感じるような状況が多々あった。もっと本質的な政策に関わりたいと強く思った頃だった。

時は流れ、アメリカで博士号を取得し、国際通貨基金でエコノミストとして働き始めた。その3週間後にリーマンショック、そして世界的金融危機が生じた。私が当時担当していた国々も深刻な資金流出に直面した。担当国に飛び、財務大臣、中央銀行総裁、国によっては首相との政策に関する議論・交渉という、博士号を取り立ての新人ではなかなか出来ない大変貴重な経験をした。これらの経験も私のルーツといえよう。ただ、首都でひたすら政治家・政府高官との交渉に明け暮れたため、一般の方の生活の様子が見えてこない。つまり人々の暮らしの詳細が想像出来ないのだ。「これで本当に大きな政策を語ってよいのか?」という青年海外協力隊時代とはいわば逆の感情が今度は芽生えた。

そして更に時は流れ、大学人としての現在に至っている。大学人の最大のメリットは、自由度にあると思う。ミクロ的視点からマクロ的視点まで、時には両方の視点を組み合わせて、自分の関心のある問題に自分の意思で取り組めることはかけがえのない魅力である。よって、開発経済学という範疇で、思う存分研究・教育に取り組ませて頂いている。現地の人々の暮らしを理解するためにフィールドワークに出かけることが出来るし、アフリカの教育政策に一石を投じたいと励む方々の側面的支援に携わることも出来る。今後も、病気や怪我に細心の注意を払いながらこの研究分野に埋没したいと思っている。ただ最後に、私はすでにマラリアに2回罹患してしまっていることを注記しておきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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