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【Researcher's Eye】
異分野融合のすゝめ

2019/05/22

  • 早瀬 潤子(はやせ じゅんこ)

    慶應義塾大学理工学部物理情報工学科准教授 専門分野/量子エレクトロニクス、光物性

「異分野融合がイノベーションを創出する」。最近、同様の趣旨の言葉を聞く機会が多くなった。多くの研究者たちが、異分野融合の重要性を認識している証拠だろう。

私自身が異分野融合の重要性を強く実感したのは、さきがけ研究者として研究に従事していた、今から10年以上前のことである。さきがけは、科学技術振興機構(JST)のファンディングプログラムの1つであり、若手研究者の登竜門とも言われる。学生の頃から光物性や量子エレクトロニクスなど、光を用いた研究をしてきた私は、さきがけ「光の創成・操作と展開」領域に応募し、幸運にも10倍以上の高い倍率の中採択された。同じさきがけ領域には、光科学を取り扱うさきがけ研究者やアドバイザーが参加していたが、光の研究分野は非常に幅広く、今まで交流したことのなかった異分野の研究者たちと多く知り合うことができた。半年に1度開催される合宿形式の領域会議では、さきがけで知り合った異分野の研究者たちと「どうしたらおもしろい研究ができるか?」夜遅くまで真剣に語り合い、その中からいくつもの画期的なコラボレーションが生まれていった。まさしく「異分野融合」の賜物である。この経験を通して異分野融合の重要性を実感し、さきがけ研究終了後、有志の研究者たちと新たに光科学異分野横断萌芽研究会を立ち上げた。この研究会は今でも続いており、異分野融合に一役買っている。私も現在、この研究会で知り合った医学部の研究者と、新たなコラボレーションについて作戦を練っているところである。

私が学生時代から参加している応用物理学会量子エレクトロニクス研究会においても、異分野融合が使命として掲げられている。量子エレクトロニクス研究会は数10年の歴史をもつ伝統ある研究会である。設立当初は、光分野と半導体分野の研究者間、大学・研究所と企業の研究者間が議論を戦わせ、半導体レーザの発展に大きく寄与した。以来、異なった研究基盤を持つ研究者が、光との相互作用を通じて交流することによってさらなる発展を求めていくことが、研究会の趣旨となっている。この春から、量子エレクトロニクス研究会の副委員長を仰せつかった身としては、研究会の伝統をしっかり引継ぎ、異分野融合を進めていきたいと思う。異分野融合こそが、イノベーションを創出すると信じて。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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