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【Researcher's Eye】
誰のための消費者行動論なのか

2019/05/13

  • 赤松 直樹(あかまつ なおき)

    明治学院大学経済学部専任講師・塾員 専門分野/消費者行動論、マーケティング論

私たちは、買物を楽しんだり、何かを使用・消費することで新たな発見を得たりする。これらは全て消費者行動として捉えられ、私たちは消費者として様々な経験をしながら生活をより豊かに送っていることがわかる。

消費者行動論は、マーケティング論の下位分野である。マーケティングとは、商品やサービス、ブランドを消費者に支持し続けてもらう仕組みや仕掛けのことだが、それを効果的・効率的に実現するには、消費者の行動を理解する必要がある。そのため、米国における実務でマーケティングが重要視されるにつれ、消費者行動の研究もまた注目を集め、1970年代には1つの学問領域として認識され、現在に至るまで活発に研究が行われている。

その中でも、私は、消費者が複数の異なる商品・サービスを逐次的に選択している点に着目した研究を行っている。例えば、スーパーでの買物や喫茶店での注文といった場面では、異なる商品(例:ケーキとコーヒー)を逐次的に選択することは珍しくない。そして、このような場面では、消費者は事前の選択結果を考慮しながら、その後の選択を行う傾向がデータから示されており(例:甘いケーキを選んだ後は、渋いコーヒーを選ぶ)、各選択を別々に捉えるのではなく、選択間の影響を考慮して分析する意義が指摘されている。今後、逐次選択に関する研究成果がより一般化されれば、例えば小売店に対して、異なる商品間の相互作用を考慮したレイアウトやプロモーションなどに有益な知見を提示できるだろう。

このような研究は、先述したように、企業にとって消費者行動に対する理解がより良いマーケティングの実現に寄与することを前提としている。この意味では、「企業(マーケティング)のため」の消費者行動論であると言える。

その一方、私たち消費者が、消費者行動を通じて生活を豊かにしている実感がある以上、例えば購買行動が生活を豊かにするメカニズムの分析など、消費者に対して直接的に知見を提示することを目的とした研究、つまり「消費者のため」の消費者行動論にも積極的に取り組む必要があるだろう。

このように、消費者行動論は実学としてさらに発展していく可能性があり、私自身も一研究者としてそれに貢献したいと考えている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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