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【Researcher's Eye】
慶應SKC計画~学びと研究の転回

2019/04/08

  • 岡原 正幸(おかはら まさゆき)

    慶應義塾大学文学部教授 専門分野/社会学、演劇学

慶應SKC計画! ご存知でしょうか? 創立150年記念未来先導基金の公募プログラムとして塾から三度にわたり助成を受けています。SKC(Super Knowledge Campus)とは、大学キャンパスで流通する知識や情報とは異なり、自分の身体と感情、交渉や依頼といったコミュニケーション、他者とともに、他者を想像しながら培う「知識を超える知」が開発されるキャンパスという意味です。

具体的には、塾生の自由な発案による、多様な企画(地域連携、社会貢献、国際体験、アート表現)があります。幾つかを紹介しましょう。

《こもろ映画祭》長野県小諸市の行政、商店会、住民や三田会と協力して、塾生たちは関東圏の大学に小諸市を舞台に小諸の市民が出演する映画の製作を募集、寄せられた映画を市民の投票で表彰するという映画祭を一昨年より運営しています。また、慶應に来た留学生に、小諸の人々の生活に触れてもらう《こもろ留学》もあります。

《A-Brut》障害者のアートをプリントしたTシャツを製造し、オンラインで販売、利益を寄付します。障害当事者との交渉から、製造や販売、広告の全過程を塾生がこなします。

《記憶の継承・表現》戦跡、被災地などを訪問(ドイツ、韓国、福島、沖縄、長崎など)、そこにある光景や証言をアーカイブしつつ、塾生はビデオ、パフォーマンス、演劇などの表現を通して自らの思いや感情を伝えます。

Self-Education、Self-EmpowermentSelf-Respect、「自ら学び、自らを高め、自らの価値を知る」。塾の信条である独立自尊、半学半教、自我作古ともつながり、自分たちで発案したものを、他者とともに学びながら実現していくことで、最終的には、自分自身への自信を高め、ともに行動した他者への敬意も深くします。

塾生の積極的なアクションを目の当たりにして、昨今のアクティブ・ラーニングさえ超えた、学びのコペルニクス的転回を僕は知りました。それは研究の転回でもあります。実際、プログラム参加の塾生自身が関連学会で報告するだけでなく、真理よりも対話と想像、事実よりも真実と共感、そこにこそむしろ学問や研究の目的や使命をおく新しいスタイル(アートベース・リサーチ)の誕生を目の当たりにするからです。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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