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【Researcher's Eye】
所裕子:研究したい研究者たち

2019/01/21

  • 所 裕子(ところ ひろこ)

    筑波大学数理物質系教授・塾員 専門分野/物理化学、材料科学

私は、材料について、物理化学的な視点から研究をしています。これまでに、アメリカ、フランス、イギリス、スペイン、ポーランド、ベルギー、ルーマニア、中国、など、多様な国の研究者と国際共同研究をしてきました。共同研究者とは、普段はメールでやりとりをしていますが、国際会議等で会ったときや、お互いの研究室を訪問したときには、研究セミナーをしたり、ディスカッションをしたります。その後は、一緒にご飯を食べたり、カラオケに行ったり、買い物(お土産)にも付き合ったりもします。お互いを知り、一緒に時間を過ごすことが、科学的に信頼しあうために非常に重要であることを学びました。そして、お互いに信頼しあうことが、共同研究を進めるためにとても大切なことだとも学びました。

さて、このように様々な国の研究者と話して、気づいたことがあります。科学研究はとにかく研究に時間を費やさなければ成果が得られないため、どのように研究時間を確保するか、ということが、世界各国の研究者達の共通した悩みであることを知りました。例えばポーランドの研究者は、「夜中にも実験の様子を見に行くから、大学の近くに住んでいるよ」と、楽しそうに言っていました。フランスの研究者は、「夕ご飯の時間は一旦自宅に戻り、家族が寝静まったら研究室にもどって、朝方まで研究する。妻に〝よく寝たの?〟と聞かれるから、いつも〝良く寝たよ!〟と答えるんだ。でも、眠るより研究したいよね」と笑いながら言っていました。また、別のフランスの研究者は、「私の大学では、夜10時以降は建物に入ってはいけないルールになっている。夜通しの測定が必要な実験もあるのに、何も研究できない! 実験できなくて本当につらい。以前、海外出張のために必要なものを研究室に忘れてしまい、夜10時以降にこっそり研究室に忍び込むことを試みたら、サイレンが鳴り、警察が駆けつけてきた。私はもう、夜10時以降研究室に行くことを諦めた」と言っていました。因みに、この話をしていた研究者は、その後に大学を辞めてしまいました。日本では最近、働き方改革が叫ばれています。人間らしい生活を送るために、素晴らしいことだと思います。一方で、もっと研究したい。研究者のそういう心も、より尊重される、そういう社会になっていくと良いなと思いました。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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