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【Researcher's Eye】
廣野美和:中国の国際関係を追って

2019/01/14

  • 廣野 美和(ひろの みわ)

    立命館大学国際関係学部准教授・塾員 専門分野/国際関係学

慶應義塾大学在学中、赤木完爾先生のゼミで国際関係を中国に焦点をあてて研究したいと考えた頃から20年、中国がその国際的な地位を変えるに従い、私の研究テーマも変遷してきた。一貫して注目しているのは、国際関係の中で支配的な考え方や価値観が、他者、つまりその価値観の受け身となっている人々にどのように受け止められるのか、という問題だ。19世紀の帝国主義時代に西欧諸国が押し付けた主権概念を、中国や日本がいかに理解したかというのが最初のテーマだったし、2000年代初期、まだ中国西部の多くが貧困に喘いでいた時代に、欧米諸国を出自とする国際NGOが中国に広めようとする民主、人権、また時にはキリスト教などの価値観が、中国西部の人々にどのように理解されたのかというのが博士論文のテーマだった。博士号を取得した2007年には中国の走出去(ゾウチュチィ)戦略もかなり進み、中国の経済力が発展途上地域において大いなる期待とともに認識されるようになった。そこで、経済発展や政治社会の安定という中国のもつ価値観が、発展途上地域にどのように認識されているかというのが私の新テーマになった。中国の国際的発展の軌跡をたどると、私の現在の研究は中国の政策を理解するだけではこと足りず、必然的に中国の外でも行われることになる。これまで、カンボジア、ミャンマー、インドネシア、ネパール、ケニア、エチオピア、リベリアで、様々な職位・社会的地位の人々に彼らの中国観についてインタビューを行ってきた。

現在の日本や米国の論壇では中国脅威論ばかりが目につくが、実際に様々な国で彼らの中国観をインタビューするとそれはまさに百花斉放。中国が経済面だけでなく国際政治にも積極的に貢献していくことを望む声が多い一方で、ミャンマーのように常に大国である中国と付き合ってきた国では不信感が強い。多くの論者が国際政治のリーダーシップとパワーが米国から中国にシフトしていると語る中、リーダーシップになくてはならないもの、つまりフォロワーシップについては忘れられがちだ。フォロワーである人間がいてこそのリーダーシップ。フォロワーたちの見方は国際秩序の変遷の時代に生きる我々に計り知れない示唆を与えてくれる。国際関係はパワーの関係だけではない。人間同士の関係なのだ。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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