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【Researcher's Eye】
田中稔:六十の手習い

2018/12/24

  • 田中 稔(たなか みのる)

    慶應義塾高等学校数学科教諭 専門分野/ 数学全般

もう40年以上も前のことだが、大学の数学科の4年生になる前にゼミを選択するにあたり、代数に魅力を感じながらも関数解析の方に進み、代数はあきらめてしまった。

高等学校の数学の教員になってからも何度か自分で代数の本を読みかけたものの根気が続かなかった。それでも7、8年前くらいから代数、特に整数論の分野に興味を持ち、最近解決されたかもしれない「リーマン予想」に関する本などを読んでいた。しかし自分で本を読んで学ぶことにも限界を感じていたので、もし留学という機会が与えられたら研究に専念できるのだが、と考えていた。

希望の留学先は既に決めていた。昔からその整然とした街並みに魅せられていたパリである。幸い、学生のとき第3外国語で選択したフランス語を細々とNHKのラジオ講座など で続けていた。しかもパリは綺羅星のごとく数学界に名を連ねるフェルマー、ガロア、ルジャンドル等を輩出した地である。インターネットのお蔭でパリ第6大学の大学院数学科に メールでコンタクトを取ることが出来、入学担当の教授の専門が整数論であったことも幸いし、1年間受け入れていただけることになった。その後、幸いにも慶應義塾の留学許可をいただけた。渡航前の手続きから渡航後のアパート探し、入学手続きなどかなり苦労したが、2015年9月よりパリで1年間の学生生活を始めた。

科目はもちろん代数を中心に選択し、講義、演習は週25時間ほどで体力的にも内容的にも自分には結構ハードであった。11月には悲惨なテロ事件もあったが、私の日常生活には特に影響もなく無事に修士1年の修了証もいただいた。代数への理解も深まり、成果は帰国後の授業、特に卒業研究で生徒に還元している。もちろん勉学だけでなく大学が休暇のときは、パリの整然たる建築を楽しみ、美術館を巡った。また様々な地方にも出掛けフランス文化の吸収に努め、もう1つの趣味であるワインについても知識を深めることができた。

還暦を迎え、老骨に鞭を打ちつつも誠に楽しい努力の日々であり、このような機会を私のような年輩の者にも与えてくださった慶應義塾に深く感謝するものである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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