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【Researcher's Eye】
神武直彦:宇宙利用のすゝめ

2018/07/27

  • 神武 直彦(こうたけ なおひこ)

    慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 専門分野/システムズエンジニアリング

宇宙を利用した取り組みが活発化している。宇宙空間に存在する人工物の多くは人工衛星であり、すでに4400機を超えている。その多くは「ひまわり」に代表される地球観測衛星、BS・CSに代表される通信・放送衛星、GPSや「みちびき」に代表される測位衛星の3種類に分類される。日本もこれらの人工衛星を保有する宇宙先進国である。近年では、人工衛星の高機能化、小型化、低価格化が進み、テーブルに載せられる大きさの超小型の人工衛星をあらゆる国で所有することが可能になり、誰もが自分の人工衛星を保有して共有する、マイ衛星、衛星シェアリングのようなことが可能になりつつある。

様々な社会課題の解決に人工衛星の利用は有効である。国境を超えた広い地域を対象とすることが可能で、そのデータを保存すれば、地球規模課題から地域課題までその変化や違いを把握することができる。我々の研究室では、例えば、マレーシアにおいて、農場の地形データを地球観測衛星やドローンで取得し、測位衛星を活用して最適な植え付け位置を農作業者にナビゲートするシステムや、カンボジアにおいて、貸付を受けたい農家と貸付をしたい金融機関のために、農家の日々の農作業データと地球観測衛星から得られる農地データを活用して返済/貸付リスクを算出するシステムをデザインしている。また、スポーツ分野においては、選手にGPS受信機を装着して日々の練習や試合の運動量データを常時計測し、生体データと組み合わせることでケガの予防やトレーニングの向上につなげるような取り組みも行っている。実際、塾蹴球部ではそれによる様々な効果が出ている。

人工衛星を利用した社会課題解決に挑むときに重要なことは何か? それは、その課題を俯瞰的かつ緻密な視点で理解することである。その上で、その課題を抱えている人やコミュニティの真の期待や思いを共に明らかにしていくことが必要である。それにより、人工衛星の利用が様々な社会課題解決に役立つということを日々体感している。そのためにも、社会課題解決に挑む方々が宇宙利用に興味を持ち、宇宙利用に携わる方々が様々な社会課題解決に興味を持つような取り組みや環境を慶應義塾の一貫教育校から大学・大学院、研究機関を中心として、国内外の多くの方々と共に創り出していきたい。

※所属・職名等は当時のものです。

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