【Researcher's Eye】
本領崇一:学者の接待
2018/06/26

国内外の大学、研究機関では、研究者間の情報交換、意見交換などの目的で、他の研究機関から研究者を招き、1時間から1時間半くらいの時間で研究報告をしてもらうようなことが日常的に行われている。私の勤めるドイツのマンハイム大学では、ミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学の3つの研究者グループが、それぞれ1週間に1回、決まった時間に外部の研究者を招き研究報告をお願いしている。
海外の大学では、研究報告をお願いするにとどまらず、報告時間に前後して、招いた大学の研究者達が報告者に30分の個人面談の時間をもうけてもらうのが普通である。多くの大学では、そのために報告者を丸1日拘束することになる。マンハイム大学は、報告者のスケジュールを個人面談で朝から晩まで埋め尽くすのが、熱心な研究者がたくさんいるというアピールにもなるし、なによりわざわざ来ていただいた方への礼儀であり、おもてなしであるという信念を持っている。
個人面談の有志が十分に集まらない場合、事務方から、報告者と個人面談を入れてください、という電話がかかってくる。事務方にはいつもお世話になっているから、とてもノーとは言えない。ところが、一口に経済学といっても、幅広い研究テーマと全く異なる分析手法を包括するから、30分つぶすための話題がみつからなそうなケースが多々ある。集団意思の形成を数理的モデルを作って分析する私は、教育水準と家庭内暴力の関係を実証研究する初対面の学者と、30分も英語で有意義な研究の意見交換などとても自信がない。
だから30分の面談を乗り切るために、HPなどを通じて、面談相手との共通の話題を探しておく。もしかしたら共通の友人が見つかり、その話にもっていけるかもしれない。相手の国籍も前もって調べておく。相手がイタリア人ならサッカーの話をすればいいし、韓国人なら、たいていスラムダンク(漫画)の話をすればいい。
つい先日、私が論文を投稿していたAmerican Economic Review誌の編集長が研究報告に来るということで、この時は自分から個人面談の予定を入れてもらった。するとちょうどその日の早朝に、彼からいわゆる、論文の掲載を断るリジェクションレターが電子メールで届いた。この時の個人面談は、苦情を申し立て30分をつぶすことができた。
※所属・職名等は当時のものです。
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本領 崇一(ほんりょう たかかず)