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【KEIO Report】KEIO BASEBALL YEAR──東京六大学野球秋季リーグ戦優勝を振り返って

2023/12/23

東京六大学野球秋季リーグ戦優勝の瞬間(2023年10月30日)
  • 加藤 貴昭(かとう たかあき)

    慶應義塾体育会野球部長、環境情報学部教授

このたび、大学野球部は4季ぶり、40度目の六大学野球リーグ優勝を決めた。各大学から勝ち点を得る完全優勝としては実に11季ぶりとなる。約2カ月前には塾高野球部が107年ぶりの夏の甲子園優勝という大偉業を成し遂げており、某スポーツ紙の一面は「慶応year」という見出しで飾られた。さらには1・2年生による六大学フレッシュトーナメントでも優勝を果たした。

今年度より私は野球部長に就任し、自分が選手だった1996年以来、27年ぶりに神宮球場のベンチに入ることとなった。しかしその初陣は衝撃的なものであった。春の法政戦は開幕特有の緊張感が漂っていたが、初回いきなりの3ランを浴び、3安打7三振に抑えられ、さらには4つの失策も重なり、0-10で大敗した。さすがに「今年は厳しい」と思わざるをえなかった。昨年からレギュラーとして試合に出ていたのは廣瀬、宮崎、外丸の3名であり、今年はまさに「新しい」チームで、続く明治と2カード連続で勝ち点を落とし、早々に優勝争いから脱落した。しかし、ここからチームは挽回し、早慶戦では廣瀬のHRなどで勝ち点を得て、結果的には3位となった。この経験を元に、夏は相当量の練習に励んだと聞いている。

そして迎えた秋のシーズン。私は試合前に行われる打撃練習をゲージ裏から見て、春とは比べ物にならないほどの鋭い打球を飛ばす選手達に驚いた。初戦の立教戦では宮崎、本間のHRなどで幸先良く勝ち点をあげた。次の法政戦は文字通りの死闘となった。1戦目は廣瀬のHR、外丸の好投で勝利したが、2戦目は栗林の2本のHRがあったものの9回に失点して敗戦、続く3戦目はお互い一歩も譲らず0-0で12回引き分け、そして4戦目には逆転につぐ逆転の攻防となり、野手、投手全員の活躍で勝ち点をもぎ取った。この勝利はチームの強さを証明し、選手達の自信にもつながった。続く東大戦も全員安打で勝ち点をあげ、いよいよ春の覇者の明治を迎えた。試合直前にベンチ裏で「自分たちは強い、これまでやってきたことを思い出し、仲間と、自分を信じて、皆で戦おう」と話したのだが、内心「本当に勝てるのかな」という心配のほうが大きかった。そんな思いとは裏腹に、初回から打線が爆発し5点をあげ、投げてもエース外丸がほぼ完ぺきに抑えた。2戦目は僅差で敗れたが、3戦目、初回から相手エースを攻略し、外丸の前回以上の活躍で完封した。この時、このチームは六大学最強であることを確信した。

そして最終週、120年目となる早慶戦を迎えた。1戦目、互いに譲らず0-1にて迎えた9回表、代打の1年生らの活躍で逆転。しかしその裏に早稲田も粘りサヨナラ負けを喫した。そんな劇的な試合の後に迎えた2戦目は、全てが吹っ切れたように初回から打線がつながり4年生が活躍、投げては1年生竹内と4年生谷村の完封リレーで1勝1敗に持ち込んだ。そして事実上の優勝決定戦となった3戦目、ここで待望の主将廣瀬の先制2ランHRが飛び出し、ベンチ内は今シーズン最高の盛り上がりとなった。早稲田も粘り強い攻撃を繰り返すが、本間のHRなどで突き放し、早大戦200勝目をあげるとともに、今シーズンのリーグ優勝を決め、天皇杯奪還を果たした。

主将の廣瀬は相当なプレッシャーの下、相手チームの厳しいマークもあり苦しんできたが、結果的には重要な場面でHRを放ち、六大学歴代4位となる通算本塁打記録を残した(1位は高橋由伸、3位は岩見雅紀でいずれも慶應)。副将の小川と善波は主に代打として活躍し、チームを陰から支える精神的柱であり、チームメイトからの信頼も厚かった。同じく副将の森下も投手陣を支え、最後の優勝の瞬間を決めてくれた。栗林はまさにチームの主軸であり、最後のシーズンでは見事に三冠王に輝き、浪人してもこんな選手になれるということを示してくれた。宮崎も日本代表選手に選ばれ、捕手としても最強の投手陣をリードした。そして信頼できる投手の柱となった谷村、チームに欠かせないリードオフマンの吉川、絶妙なところで結果を残す齋藤來音、代打陣としてチームを支えた佐藤一朗や村上など、4年生達の活躍はまさに今シーズンを象徴するものであった。

そんな先輩達にも負けず劣らずに頑張った3年生の本間、水鳥、斎藤快太、2年生エースの外丸、1年生の上田など、皆それぞれ個性のある選手ばかりであった。そしてチーフの関を中心とする学生コーチ陣が選手達を裏から支え、さらにはベンチ入りできなかった選手達、マネージャー、データ班、アナリスト、トレーナーの学生達、チーフスタッフの皆さんなど、全ての野球部メンバーが今回の結果を導いてくれた。春は15試合、秋は14試合という数をこなし、1戦ごとに成長するチームを見るのが楽しかった。堀井監督が4年にわたり築いてきたこの「チーム力」こそが慶應野球の象徴である。また最強の投手陣を作り上げ、身近で選手を支えた中根助監督の存在は大きいものであった。試合中のベンチ内ではいつも明るい雰囲気(笑顔)があり、全員が誰かのために献身する姿は本当に素晴らしかった。そんなチームがもたらしてくれた優勝は感動と喜びを与えてくれ、私自身はじめて「エンジョイ・ベースボール」の意味を知ったような気がした。

そして、やはり大応援団による大声援である。久々に応援席が解放され、多くの塾生、塾員、教職員の皆様にお越しいただいた。早稲田大学総長からは早慶戦に行くよう学生へ通達があったそうだが、それを上回る慶應の大応援は野球部の力となった。優勝後には応援席にてセレモニーが開かれ、伊藤塾長、山内常任理事、コロナで苦労した4年生らと共に「丘の上」、「若き血」を歌わせてもらえた。塾が一体となるこの文化を継承すべく、今後も塾長が仰る祝福された先導者を目指していきたい。この場をお借りして関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

11月15日より明治神宮野球大会となるが、この記事が掲載される頃には、高校と共に日本一を果たして、真の慶應yearとなっていることを信じている。
(その後、11月20日に行われた明治神宮野球大会の決勝戦で青山学院大学に勝利、見事に大学日本一に輝いた。[編集部])

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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