【その他】
「ガクモンノススメ」プロジェクトの始動
2022/12/08
明治5(1872)年、『学問のすゝめ』の初編が出版された。その150年後の令和4(2022)年、慶應義塾は「ガクモンノススメ」プロジェクトを発足させた。『学問のすゝめ』は福澤諭吉の最も著名な代表作の1つである。内容まで細かく知らなくても、そのタイトルと冒頭の言、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり」は誰でも知っている。
そこで150年の節目に、義塾はこれからの未来を切り開いてゆく受験生や塾生などを主な対象として、現代にも通用する示唆に富んだ内容に関心を持ってもらおうと、以下に紹介するイベントを企画した。先が見通せない不確実な時代の指針を彼らの瑞々しい感性で読み取ってもらいたいのである。
まず企画の全体を示す「ガクモンノススメ」プロジェクト特設ウェブサイトを11月14日に開設した。このサイトのURL(https://www.keio.ac.jp/ja/gakumon150/)をクリックすると、最初に福澤のイメージキャラクターが登場し、表情や動作が多彩に変化するようになっている。
次に本プロジェクトのコンセプト「勉強ってなんのためにするの?」が掲げられる。「学問」を「勉強」に置き換え、『学問のすゝめ』のモチーフそのものを平易な言葉で綴ったものである。堅苦しい文語表現をいったん離れ、若い人たちに訴求する効果を狙っている。そして刊行当時の福澤が、まだ幼かった長男の一太郎と次男の捨次郎と一緒に撮った写真が現れる。二人の子を守るように両腕にしっかりと抱いた福澤のまなざしが、次世代へのメッセージを熱く物語っているようである。
さて、いよいよ本企画の目玉である。伊藤公平塾長と各界で活躍する塾員との間で、3回に亘って公表が予定される対談動画である。その第一作、タレントの櫻井翔さんとのセッションは、11月18日にすでに上記の特設ウェブサイト上で公開済みである。母校を久しぶりに訪ねた櫻井さんを塾長が迎え、図書館旧館の記念室を舞台に、両者とも『学問のすゝめ』を手に携え、学問・仕事・人生をめぐるそれこそ縦横無尽の対話を重ね合う。巧みな編集技術もあり、閲覧者は前編後編を通して二人のトークに惹きつけられるに違いない。
このほか、第二作は国際機関で活躍する塾員との、また第三作は主にスポーツ界で活躍するアスリート塾員との対談動画が掲載される予定である。第二作は今年中、第三作は来年の公開となる予定である。ご覧になったかたはぜひともご意見やご感想を広報室の方にお寄せ頂きたい。
また本プロジェクトは学内部門とも連携している。これも特設ウェブサイト上で確認ができるが、福澤諭吉記念慶應義塾史展示館の2022年度秋季企画展は「福澤諭吉と『非暴力』─学問のすゝめ150年」と銘打ち、ペンは剣よりも強しとする福澤精神の真骨頂を豊かに伝える(12月17日まで)。また福澤研究センターによる慶應大阪シティキャンパスを会場とした同センター講座、2022「『学問のすゝめ』150年」が、11月27日から始まっている。期間は来年の3月12日までだが、参加の仕方は来場のほかオンラインも可能である。詳細は特設ウェブサイトにあるURLをクリックして頂きたい。2022年の学内講演会でも、5月の「福澤先生ウェーランド経済書講述記念講演会」では鈴木哲也理工学部教授が『学問のすゝめ』について触れられ(本誌本年8・9月号参照)、12月の「三田演説会」ではアルベルト・ミヤンマルティン経済学部准教授が同書に言及したお話をされる予定という。
このほか、Japan Times(12月5日付)に同社の末松社長と伊藤塾長の対談記事が掲載される予定であり、本企画のことが言及されている。また「朝日教育会議」では「起業のススメ─『学問のすゝめ』150年に寄せて」をテーマに、塾長のほか、平野隆福澤研究センター所長、山岸広太郎常任理事、岡野栄之医学部教授、米良はるかさん(塾員、READYFOR株式会社代表取締役CEO)が登壇して、福澤と門下生たちのアントレプレナーシップに遡りつつ、未来の起業家輩出の条件について語り合った。この会議は12月7日に朝日新聞に掲載される予定である。
さらに書店とも連携する予定である。各キャンパスの生協、TSUTAYA田町駅前店ほか都内近郊、大阪駅周辺の書店などへの関連書籍のブックフェアなどの開催も予定している。また『学問のすゝめ』はもちろんだが、そのほかの福澤著作も紹介する。このブックフェアは慶應義塾大学出版会と連携して実施する。この機会に少しでも多くの学生が福澤の著作を手に取って親しんでくれることをわれわれは願っている。
販促グッズとして作成した福澤キャラクター(ユキチくん)ステッカーも三田祭の前後に配布が始まる。150年前の『学問のすゝめ』の著者が今ここに現れたら、ネットやSNSで気軽に繋がり、巧妙に交信・交感し合う塾生たちを見てどう思うだろうか。出版や通信を文明の利器として重要視した福澤は早速に時代の先端に生きる若者たちとコミュニケーションしようとするのではないか。そこでは、デジタル時代の「ガクモンノススメ」がトピックとなることは必定であろう。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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岩谷 十郎(いわたに じゅうろう)
慶應義塾常任理事