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福澤諭吉記念慶應義塾史展示館
第3回 デジタルコンテンツが生み出す学びの機会

2021/04/19

タッチパネルで知る戦没者の記録

「慶應義塾関係戦没者データベース」も独自のアプリを開発し、大きな労力がつぎ込まれたコンテンツである。慶應義塾関係戦没者については、白井厚編『アジア太平洋戦争における慶應義塾関係戦没者名簿』があり、これを引き継ぐかたちで福澤研究センターが改訂作業を続けている。また同センターでは2013年に「慶應義塾と戦争」アーカイブ・プロジェクトを発足、戦争期の調査を継続しており、このデータベースはそれらの最新データが反映されている。

検索項目としては「苗字」、「戦没年月日」、「戦没場所、その他」、「陸軍・海軍・軍属」、「所属」、「卒業年等」、「クラブ」が用意され、利用者は自らの関心に沿って検索できる。とりわけ「戦没場所、その他」の項目は詳細にわたり、同項目のタブは「戦没場所」、「所属、トピックによる分類」、「戦闘による分類1」、「戦闘による分類2」の4つある。「所属、トピックによる分類」には「海軍予備学生(兵科)出身者」、「陸軍特別操縦見習士官出身者」、「戦没オリンピアン」、「軍医」、「従軍看護婦」、「シベリア抑留による死者」などのボタンがある。試みに「航空特攻による戦没者」のボタンを押せば、32人の氏名、戦没年月日が表示される仕組みとなっている。また戦闘による分類には「ノモンハン事件」、「ガダルカナルの戦い」、「インパール作戦」、「レイテ沖海戦」、「硫黄島の戦い」、「沖縄の戦い」など35のボタンを用意し、それをタッチすることで当該戦闘などで戦没した慶應義塾関係者の一覧が表示される。

「航空特攻による戦没者」の検索結果画面
詳細な検索項目が新たな関心を引き出す

このように一見過剰なまでに詳細なボタンを用意したのは、授業や教科書、ニュース等で利用者が見聞きした経験のある出来事とリンクする戦没者の記録は、既存の知識に深みを与え、戦争について考えるきっかけになると信じるからである。クラブなどさまざまな情報が組み込まれているのも同様で、利用者と戦没者の何らかのつながりをきっかけとした関心の広がりを期待している。

気づきを生み出すコンテンツ

さて、ここまで2つのデジタルコンテンツを紹介してきた。展示館の理想は慶應義塾関係者であるか否かを問わず、あらゆる利用者にとって何らかの気づきや学びの場となることである。今回紹介した2つのコンテンツはこのような狙いと親和性が高いと思われる。利用者にとって自らと出身地や職業などを同じくする人物は比較的関心を持ちやすいであろうし、同じクラブの戦没者は他人事ではないだろう。膨大な情報を組み込めるデジタルコンテンツはより多くの人へオーダーメイドに近いアプローチを可能にする。こうした点を意識して情報の更新・充実を目指したい。

とはいえ、利用者にはまずは肩ひじ張らずにデジタルコンテンツを使っていろいろ試してもらいたい。そのうえで新たな知見や心に残る体験が得られることを願っている。

福澤諭吉記念 慶應義塾史展示館 HP
https://history.keio.ac.jp/

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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