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福澤諭吉記念慶應義塾史展示館
第3回 デジタルコンテンツが生み出す学びの機会

2021/04/19

  • 横山 寛(よこやま ひろし)

    慶應義塾福澤研究センター研究嘱託

専用アプリの開発

俗に「福澤山脈」という言葉がある。小島直記の同名小説に由来するこの言葉は主に実業界を中心に広く活躍した福澤門下生たちを指して使われることが多い。その存在は慶應義塾史においても重要な位置を占めるが、そうとはいえ数多いる慶應義塾関係者を抽出して展示に組み込むことは困難である。そこでそうした人々を一望の下に紹介する専用アプリの開発が行われた。そして完成したデジタルコンテンツが「社中Who’sWho」で、一際大きなスクリーンは利用者の目を惹く、展示館の目玉の1つになるだろう。

展示の構成が比較的オーソドックスなスタイルをとっていることは前号の通りであるが、一方でデジタルコンテンツの充実にも力を注いだ。上述の「社中Who’s Who」のほか、こちらも専用に開発したアプリ「福澤諭吉世界を駆ける」、「言葉で戦う福澤諭吉」、「近現代史の中の慶應義塾生」の合計4つのデジタルコンテンツが利用できる。こちらは多くの写真やイラストを通じて福澤諭吉および慶應義塾の歩みを視覚的に振り返るコンテンツとなっている。ここではこれらすべてを紹介する余裕はないため、「社中Who’s Who」および「近現代史の中の慶應義塾生」に含まれる「慶應義塾関係戦没者データベース」について掘り下げて機能を紹介し、残りは開館後の楽しみとしていただきたい。

日本近現代史上の著名人が集結

「社中Who’s Who」は、上述の福澤山脈に限定せず、福澤諭吉の親類や友人知人および現代までの塾員を中心とした慶應義塾関係者を紹介する人物データベースである(故人のみ収録)。2つのタッチパネル型スクリーン上に人物の肖像アイコンがランダムに漂い、各アイコンに触れると詳細画面が開いてどのような人物か知ることができる。そして選択された人物の周りには何らかの属性を同じくする人々が集まってくる仕掛けとなっている。また肖像アイコンをタッチするだけでなく、属性をもとに人物を探すこともできる。スクリーン上のホイッスルのアイコンをタッチすると検索画面が開かれ、そこには「人物名」、「出身地」、「職業」、「学問分野」、「分野・その他」、「在学期間」のタブが用意されている。各タブで人物名を入力、あるいはあらかじめ設定された諸項目のボタンを押すと、特定の属性を持った人々が集まってくる仕組みとなっている。

それでは具体的な手順によって疑似的に体験してみよう。例えば「職業」のタブには「実業」、「報道」、「芸能」、「政治」、「宗教」などさまざまなボタンが用意されている。このうち「スポーツ」のボタンを押してみる(便宜上「職業」に組み込まれているが、スポーツ界という程度の意味)。

すると日本の最初の五輪メダリストであるテニス選手・熊谷一弥、講道館四天王と謳われた柔道部初代師範・山下義韶、宮武三郎ら六大学野球のスター選手、アルプスのアイガー東山稜初登頂などで世界的に有名な登山家・槇有恒、ベルリン五輪の友情のメダルで知られる棒高跳び選手・大江季雄、ミュンヘン五輪金メダルを獲得したバレーボール男子日本代表監督・松平康隆、蹴球部をラグビー日本一へ導いた監督・上田昭夫など、慶應義塾体育会のみならず日本スポーツ史を彩る面々の肖像アイコンが集まってくる。そこでアイコンに触れると詳細を確認できるというわけだ。

生年月日、出身地、卒業年、経歴が記 される人物画面
集まってきたスポーツ界の人々

このほかにも各タブのボタンにはさまざまな項目が用意されている。例えば変わったところでは「分野・その他」のタブに「○○の父・王・神様」というボタンがある。これは「市民スポーツの父」、「製紙王」、「新劇の父」、「憲政の神様」、「電力の鬼」などさまざまな異名を持つ人々が集まってくるボタンである。このように「社中」と名付けてはいるものの、決して慶應義塾の内輪ネタではなく、各々の分野を切り開いた第一人者たちが収録されているのである。

肖像アイコンが吹き出しの形で「しゃべる」のも親しみやすさを演出する工夫である。これは大きく分けて2種類設定されており、「こんにちは」など誰でも共通のものと、各人に固有のセリフがある。例えば福澤諭吉ならば「門閥制度は親の敵」、小泉信三ならば「練習は不可能を可能にす」などがそれに当たり、その人の言葉やまつわる出来事、小ネタなどを一言つぶやくようになっている。人によっては複数のセリフが設定され、人物紹介に比してややくだけた内容のものも多い。こうしたセリフに興味を惹かれて肖像アイコンに触れ、一期一会を楽しむのも一興だろう。

これまでのところ「社中Who’sWho」には『福澤諭吉事典』『慶應義塾史事典』などを中心に300人程度収録されており、随時追加していく予定である。また、人物とは別に動画再生機能も搭載されており、動画アイコンに触れることで「創立90年祭」などの映像を見ることも可能である。

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