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【執筆ノート】
『矯正という仕事──女性初の法務省矯正局長37年間の軌跡』

2022/02/07

  • 名執 雅子(なとり まさこ)

    日本電気株式会社顧問、元法務省矯正局長・塾員

人はなぜ犯罪に至るのか。この社会から犯罪をなくすにはどうしたらよいのか。答えのない問いに対峙し、刑務所や少年院で罪を犯した人に向き合う矯正という仕事。社会の治安と秩序を守るとともに、対象者を更生に導く、法務省の仕事である。

刑務所は凶悪犯や暴力団が入る怖い所というイメージに反し、今や窃盗を繰り返す高齢者や孤独な薬物事犯者ばかりが目立つ。暴走族を見なくなり非行少年の数は激減したが、彼らの苛酷な生育歴には胸が詰まる。これが今の日本の矯正施設だ。

どんな人が刑務所や少年院にいるのか、罪を犯した人を社会がどのように扱うかは、その時代の、その社会の、歪みを映す鏡となる。

2003年の「行刑改革」を契機として、刑務所は閉ざされた密行主義から「開かれた矯正」へと転換し、同時に対象者への改善指導を積極的に行い始める。外の力が刑務所の中に入り、受刑者の処遇はもちろん、出所後の就労支援、福祉・医療への橋渡し等の更生支援・再犯防止策も格段に進むこととなった。それにつれて内部も変わり、矯正施設は多分野の専門職がともに働く、多様性を良しとする組織に変わってきた。

私は、1983年に法務省に入り、2020年に矯正局長を最後に退職した。37年の仕事人生のちょうど半ばにこの大転換期を迎え、私自身の仕事に向かう姿勢も鍛えられた。この経緯は本誌(2020年2月号)のインタビューで語っている。

日々の地道な営みは消えていく。でも、今の矯正は当たり前にあったわけではない。女性の働く環境も大きく変わった。男性中心の組織の中で取り組んだことは、少数派への眼差しを強くする挑戦だった。仕事を通して考えたことを、退職後、一気に書いた。忘れないうちに。

罪を犯した人を社会はもう一度受け入れられるだろうか。最後の関門は、社会における偏見と孤立の問題だ。

「加害者には厳正に刑罰を科してほしい。でも出所したら更生して二度と被害者を生まないでほしい」という犯罪被害者の思いに応え続けなければならない、矯正という仕事。目立たないが、社会や人間にとって根源的な問題に立ち向かう、大事な仕事であることを伝えたい。

『矯正という仕事──女性初の法務省矯正局長37年間の軌跡』
名執雅子
小学館集英社プロダクション
272頁、1,980円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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