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【義塾を訪れた外国人】
ボノ(U2):義塾を訪れた外国人

2018/05/01

ボノ、三田山上で聴衆を魅了

三田山上のボノ(左端)、右端は筆者

2008年5月27日火曜、晴天のもと、三田キャンパスの演説館において法学博士の名誉学位授与式が挙行された。演説館へとつながる中庭には、ボノを一目見ようとする学生たちとマスコミでごった返していた。彼は学生たちに語りかけながら演説館へと向かった。式典においては、推薦人であった私がまず推薦理由を読み上げた。

「慶應義塾は150年前に、『独立自尊』の精神をもって市民が社会においてよりいっそう大きな役割を担いえることを1つの理念に掲げて創立されました。ヒューソン氏は、グローバル化の進む国際社会において、シヴィル・ソサエティの立場から困難な問題を解決すべく、積極的で献身的な活動を行ってきました」。

これを受けて塾長がボノに学位記を授与し、式典は終了した。この式典には、元国連難民高等弁務官でボノとも親しい緒方貞子先生、それにボノの友人で開発経済学の世界的権威でハーバード大学教授のジェフリー・サックス氏なども参列されていた。

ボノの講演は、三田で最大席数を誇る西校舎ホールが満杯になる中で行われた。聴講できたのは、寄附講座を履修した法学部政治学科の学生がほとんどであった。山本信人法学部教授が司会進行を担当し、まず私が講演のいきさつについて説明を行い、続いて「ドクター・ボノ」の登壇となった。彼の講演は内容・パフォーマンスともに迫力があり、ロック・スターだけにノリが良く、その雰囲気に聴衆は飲み込まれた。私自身もあの時の高揚感は今でも忘れない。講演の一部から、その時の高揚感を感じていただければと思う。

「慶應の精神に、そしてフクザワ先生の伝統にのっとって、私はこのことを申し上げたい……。私は本からだけではなく、人生から学んできたということを。知恵と知識はかなり違う……。私はそのどちらも持っているとは言えないかもしれないけど、私が確実に持っているのは知的好奇心です」。

「アイルランドと同様、日本は廃墟から立ち上がり、活気ある魅力的な社会を造り上げてきました。過去が現在をかたちづくることもあるが、過去に未来を支配させてはいけない。過去の歴史からあなたがた日本人が控えめであることは理解できるが、それではいけないと思う。日本には世界の舞台に堂々と出てきてほしい。日本から学ぶことはたくさんあります」。

「若くて、慶應義塾大学に学び、そしてこの新しい世代の最先端にあるとは何という特権だろう。あなたがたは世界を善へとすっかり変えてしまうチャンスを手にしています。私1人ではできないけれど、『私たち』ならできる。一緒ならできます」。

この講演に際して、ボノは聴講者全員にONEのロゴマークの付いたTシャツをプレゼントしてくれた。防衛大学校に移った今も、イベントの際にこのTシャツを着ることがある。そして、私の携帯には今もU2のアルバムがいくつか入っていて、たまにスウィングしている。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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