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【義塾を訪れた外国人】
アルビン・トフラー:義塾を訪れた外国人

2016/10/10

トフラーの経歴

アルビン・トフラーは1928年ニューヨーク生まれで、49年ニューヨーク大学卒業。妻のハイジは大学で知り合った同志だ。2人は大学院に進学せず、結婚してアメリカ中西部へ移動。そして2人は何と工場で働き始める。ハイジはアルミニウム鋳造工場の工員となり、アルビンは溶接工を皮切りにブルーカラーの仕事を体験。工場では大量生産の真っただ中で働き、失業も経験した。この体験は、その後の彼らの著作にも引用されているが、読者の理解を援けるのに大きな役割を果たしている。かたわら、ハイジは労働組合の役員として活躍、アルビンは組合紙の執筆活動も行った。5年後、ワシントンに移動し、Fortune 誌などで執筆・講演活動にたずさわった。彼の背景はジャーナリストなのだ。

トフラーはその後、著作を次々に出版するが、大学に籍をおかないのでどの学問分野にも束縛されることがなく、人よんで未来学者といわれている。他方、歴史の流れの未来を予測することはできない、という正統派からは、未来学そのものが否定されているようだ。

アルビン・トフラーの業績と協力者

トフラーの未来学者としての名前を不動のものとしたのは、1980年刊行の『第三の波』である。インターネットが出現する20年も前に、情報化社会を予言したということで注目をあつめた。トフラーの主要な著書4点を挙げると次のとおりである。日本語訳は原著と同年に刊行されている。

  • ● 『未来の衝撃』(徳山二郎訳 実業之日本社、1970年)
  • ● 『第三の波』(鈴木健次・櫻井元雄訳、徳山二郎監修、日本放送出版協会、1980年)
  • ● 『パワーシフト 21世紀へと変容する知識と富と暴力(上)(下)』(徳山二郎訳、フジテレビ出版、1990年)
  • ● ハイジ・トフラーとの共著『富の未来(上)(下)』(山岡洋一訳、講談社、2006年)

生涯で、一貫した展望によりこのように大きな著作をたびたび刊行し、各国語に翻訳されて広く読まれた人物はめったにいないだろう。ただし正確にいえば、これらはアルビン・トフラー1人の業績ではない。これは、彼自身が強調しているし、最後の『富の未来』はハイジ夫人との共著である。

アルビンとハイジの二人三脚人生

ハイジとアルビンは大学卒業後の1950年に結婚。工場のブルーカラー労働者となった経験も2人で選んだことだったろう。その後、アルビンがジャーナリストの道に進んでからも、ハイジがよき相談相手であったろう。アルビンはその後の著作活動においてもハイジの協力を得たが、ハイジが固辞するので共著者にはしなかった、と書いている。ハイジは他の2冊と晩年の『富の未来』のみアルビンの共著者となっている。

私は、夫妻が90年に来塾したときの1日のみの知り合いでしかないが、アルビンが講演で、『パワーシフト』はハイジとの共同作業であること、そして常に「私は」と言わずに「私たちは」と公言していたことを思い出す。また、夫人が常にやさしくガードされているのを見て、羨ましくもあった。

著作というのは単著か共著かで栄光も責任もはっきり分かれるが、トフラーの場合、実際はどのような関係だったのだろうか。これは想像でしかないが、学生時代から一緒に生活をして議論もし、いわば一心同体のようなものではなかったか。アルビン発の着想やその体系化を、ハイジと常に切磋琢磨して育てていたのではなかろうか。66年間におよぶ長期間、夫婦の関係が続いていたこともさることながら、彼らの共同体関係ははかり知れないところである。

さらにもう1人、トフラーを支えていた1人娘カレンのことに触れなければならない。彼女もトフラーの著作などを仕上げる有力な助手であったようだが、10年にも及ぶ難病と闘い、46歳の若さで2000年に世を去った。夫妻の嘆き悲しみはいかばかりであっただろうか。06年に刊行された『富の未来』は、そのために大幅に遅れたとトフラーは述べている。

トフラー夫妻は、1996年にトフラー・アソシエイツというビジネスコンサルティング会社を立ち上げ、彼らの思想や方策を世に伝える発信基地とした。2010年に、今後2050年までの未来予測を発表。政治、技術、社会、経済、環境に分けて40項目の予見をしている。

例えば、グローバルな宗教の動向が重要になることや企業はコネクター(繋ぐもの)の役割が強くなることなど、興味深い指摘が少なくない。アルビンの訃報はここから発表された。

図書館旧館にて。左から、松本三郎常任理事(当時)、筆者、トフラー夫妻。

展望

これからの時代で重要なこと。第2の波の工業化社会では、経済が中心だった。文化や宗教や芸術は副次的だった。第3の波の情報化社会という知識が中心の世界では、技術も経済もシステムの一部という地位になり下がる。価値観や倫理が主役となり、増進する富に向き合うだろう。個人も企業も組織も政府も、急激な未来への変化に直面している。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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