三田評論ONLINE

【話題の人】
設楽洋:"ビームス"から新しいカルチャーを発信し続ける

2022/08/19

リアルな生活とつながる店づくり

──スタッフを通して発信し続けるところもビームスの持ち味ですね。

設楽 2014年からは社員の暮らしぶりやインテリアを紹介する書籍『BEAMS AT HOME』をシリーズ化し、すでに6冊を出版しました。ライフスタイルを売るビームスならではの、いわば洋服の出ないカタログです。登場した社員は約750名。好評を博し累計30万部を突破しました。

僕自身、モノへのこだわりが強い人間です。以前は「モノからコトへ」と言っていましたが、2000年以降は「コトからヒトへ」に。まず自分たちが楽しむことを中心に置く。これからのビームスは「ハッピーライフソリューションコミュニティー」でありたいと考えています。明るくて楽しい社会現象を起こす集団、仲間に入りたくなるようなブランドを目指しています。

ビームスはスーパーブランドでもなければ、ファストファッションでもありません。いわば中間。中間がごまんとある中で重要なのは、ビームスがいいと思わせるブランディングです。

これはネットも同じです。ブランド名が頭に浮かばなければウェブサイトも見てもらえない。そういう時代に、❝コミュニティーブランド❞というものを考えました。これは1人のオーナーが小さい店に好きなものを集めていたビームスの原点でもあります。セレクトショップは自分の好きなものを好きになってくれる人が集まる十貨店でいい。会社の規模が大きくなった今、100人いれば100のビームスがあります。社員1人1人が「これが好きな人集まれ」と発信するわけですね。

僕がいつも社員に言うのは、これからの競合相手は同業者ではなくインフルエンサーだということです。彼ら彼女らは自分たちの趣味を生かしてブランドをつくり、自ら買い付けたものを売っていてそれぞれにファンもいます。その人のファンが5万人、10万人に増えたら僕たちの競合相手になる。それに対抗するには僕たちがインフルエンサー集団にならなければいけません。

「GAFAから世界遺産まで」

──コロナ禍の影響を受けながらも、その後すぐに業績を回復されました。独自のコミュニティーづくりや情報発信の賜物でしょうか。

設楽 そうですね。コロナ禍は予期せぬ出来事でしたが、それ以前からの人を軸にした施策が支えてくれました。もちろん業界全体で打撃を受けましたが、元に戻ることはないでしょう。数年先に起こったであろうことが前倒しになったと考えています。

コロナで唯一よかったのは、今までのビジネスの考え方では駄目だと気づき、スピード感をもって意識改革できたことでした。eコマースへのシフトはコロナ前からですが、DX化も推し進め、さらにVRやNFT(Non-Fungible Token)における可能性も探り始めています。異業種コラボは90年代から続けていますが、3年ほど前に「カップ麺から宇宙まで」と称し、日清のパッケージや野口聡一さんの国際宇宙ステーション滞在用被服のデザインを手掛けました。

さらにグローバルな市場を見据えた展開も始めています。日本国内の出店が落ち着き、物価上昇が進む中、日本のさまざまな魅力を発信するBEAMS JAPAN をはじめ、コミュニティーを海外へと広げる道を探っています。昨年は「GAFAから世界遺産まで」と言って、グローバル展開する企業とコラボしたり、伊勢神宮や善光寺の参道に期間限定出店もしました。

──ビームスの今年のスローガン「そこに愛はあるか」は設楽さんが自ら掲げたそうですね。エモーショナルなワードですが、設楽さんにとってどのような価値をもつ言葉なのでしょう。

設楽 「ハッピーライフソリューションカンパニー」というスローガンには、社員やビームスに関わる人が幸せになる会社にしたいというビームス創業時の思いが根本にありました。サービスや商品づくりもそうですが、今盛んなSDGsのための活動も本当に愛がなければ取り組む意味がありません。そういう僕の考えを社内に浸透させるために色々と考え、ひねりを入れたりしました。初めは笑われましたが、僕はそこにこそ真理があると思ったのです。

──ビームスは40年以上にわたり、新しいカルチャーを発信してきました。原宿から発信し続けることのこだわりを聞かせてください。

設楽 世界中のストリートファッションを見ても1番おしゃれなのは日本だと思うんですね。とくに東京は日本の象徴です。1989年に起こった渋カジ現象はそれまで海外のものを取り入れてきた日本のストリートが初めて生み出した独自のスタイルでした。原宿からはその後も裏原文化やカワイイ文化のように、新たなストリートカルチャーが生まれています。今ではスーパーブランドまでもがストリートの流れを取り入れるようになりました。ビームスは老舗ではありませんが、こうした変化の現場に長くいたことで、少しは貢献できたという自負があります。

実際にモノに触れる経験をしてほしい

──最近の若い人たちを見て、どのようなことを感じますか?

設楽 実際に色々な世界を見てほしいと思います。今はネットさえあれば海外に行ったり実物を見たりしなくても、それに近い経験や知識は手に入ってしまうでしょう。それでも、実物に触れるという経験を通して見えてくるものは違うと思います。実はフィルターバブルの外側にこそ大きなヒントがあったりもします。

僕は他業種の人と会う機会が多く、いつもさまざまな世界の流行に触れています。音楽業界やIT業界、おそらくママ友や女子高生の付き合いの中にもいろいろな流行りがある。そこから新たなスタンダードが見つかるんです。

面白いもので、89年に渋カジが流行った頃に「ビームス」のイントネーションが変わったんです。それまでは「ビ」にアクセントを置くのが正しい発音だったので最初はその変化に違和感がありましたが、次第に慣れていきました。女子高生言葉から「超~」が流行ったのと似ていますね。でもそういう流行がおじさんやおばさんに浸透する頃になると、中高生たちにとってはもう旬ではなかったりします。その現象はファッションにとても近い。マスに広がった時にはオワコンであり、ある種のスタンダードにもなっている。

──そこにも生き残りをかけた戦略があるということですね。

設楽 難しいのは広く流行したものから撤退するタイミングです。これから流行るものは感度の高い人を定点観測していればわかりますが、オワコンの見極めは本当に難しい。危ないのは売上のデータがはね上がる時です。町中に同じようなアイテムがあふれかえっていてもなおそれを追い続けると、感度の高いお客様が去ってしまうリスクもあります。

ですから敏感な人の定点観測と、逆にちょっと遅い人の定点観測が両方必要。あの人が手を出したらそろそろ終わりかなということも知っておかないといけません。僕はミーハーだからこの年代では早いほうだと思いますが、若い社員たちは「社長が買ったから、そろそろ引かなきゃ」なんて話しているかもしれませんね(笑)。

──本日は、有り難うございました。

(2022年6月15日、株式会社ビームス本社にて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事