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【写真に見る戦後の義塾】
北海道無医地区地域医療活動〜占冠村

2018/04/01

医学部には地域医療活動を目的とする学生団体が複数存在している。その1つが公衆衛生学研究会である。医学生と看護学生の有志が、毎年8月上旬に半月程かけて、北海道の医療過疎地区で活動している。1956年に設立された当時は、北海道には数多くの無医地区が存在していたため、活動内容は、病院の医師の支援による一般診療が中心であり、並行して、寄生虫調査や井戸水の水質調査などを行っていたと聞いている。その後、保健医療制度の充実に伴い、厳密な意味での無医地区はほとんどなくなったため、次第に活動内容も変化していった。

写真は、1987年夏の勇払(ゆうふつ)郡占冠(しむかっぷ)村での1年目の活動の様子である。占冠村は北海道のほぼ中央部に位置している。当時は、数年前にトマムにスキーリゾートが開業したばかりで、村の中心部よりトマム地区の方が賑わっている状況であった(写真に苫鵡(トマム)小中学校という文字が見える)。

1年目ということで、内科、眼科、耳鼻咽喉科の一般診療および学生による家庭訪問を実施した。家庭訪問では村民の生活状況や健康状態を伺い、血圧測定、医療圏調査などを実施した。その結果、次年度からは一般診療ではなく、眼科と耳鼻咽喉科の検診が医療活動の中心となった。

家庭訪問は、まず村役場から頂いた名簿(一応、家庭訪問の許可を頂いている)をもとに、公衆電話で日時を約束する。看護学生が十円玉を積み上げて、緊張しながら電話していたものである。道に迷ったり、別の家を訪ねてしまったり、様々な失敗をしながら、一人前になっていった。

村からお借りした公民館で自炊生活をしながらの活動だが、時には家庭訪問先から新鮮な野菜を頂くなどの嬉しい出来事もあった。また、星空の美しさは筆舌に尽くしがたい。

活動に際しては、多くの慶應関係者にお世話になった。例えば、写真の自動車は、旭川日産自動車の御厚意でお借りしていたが、そもそもは社長が三田会員であったからと聞いている。道内の34会員の先生方にも物心両面で援助を頂いた。それらの援助があっての活動であり、この場を借りて改めて感謝する次第である。

(国際医療福祉大学教授・平1医 島田直樹)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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