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【KEIO Report】セクターを越境し豊かな市民社会をともに創る──「慶應ノンプロフィットリーダーズ・プログラム」について
2025/12/17
クロスセクター社会の先導者
2025年3月17日、米国ロサンゼルス・ドジャースの来日に合わせ、米日財団とドジャースによる日本のNPOへの助成金進呈式が三田キャンパスで行われた。ドジャースは今年のワールドシリーズの優勝チームだが、その球団が社会活動やフィランソロピーも推進しているのは十分認知されていないかもしれない。そしてこの壇上、伊藤公平塾長より、民間非営利組織(NPO)の先導的人材を対象とする「慶應ノンプロフィットリーダーズ・プログラム」(Keio Leaders Program for Nonprofit Management 通称:"Keio LEAP for Nonprofit")を、米日財団協力のもと開講することがアナウンスされた。
社会課題の多様化や深刻化のなか、世界的なNPOの広がりが指摘されて久しい。日本でも1990年代に「NPO」の概念が紹介され、とくに98年の特定非営利活動促進法(NPO法)の施行以来その数を増やしてきた。今では、約5万のNPO法人に加え、約1万の公益財団・社団法人、10万超の一般財団・社団法人などが存在している。四半世紀ほどで民間の非営利活動がこれだけ拡大した事実は、それだけ政府や市場が対処しきれない課題が増え、それに向き合いたいと考える人びとの広がりを示している。
一方、今日のNPOやそれを取り巻く社会状況を見ると、社会的理解や制度政策の推進、個々の組織力の向上や資源の獲得など、そこには数多の課題がある。なかでも重要なのが、これらを担う人の問題で、とくに日本社会における市民社会全体の発展を見据え、そうした視野から組織や立場、セクターを超えて先導できる人材が今後一層求められることになるだろう。Keio LEAP for Nonprofit は、こうしたクロスセクターで活躍する人材の育成を行うべく、KGRIプロジェクト「慶應クロスセクター・プラットフォーム」(共同代表:経営管理研究科 中村 洋、総合政策学部 宮垣 元)の活動の一環として行われるものである。
NPO向け人材育成プログラムの概要
NPOのマネジメントやリーダーシップ育成のプログラムは、諸外国の大学では一般的に見られ、米国でも、ハーバード大やスタンフォード大をはじめ、有力大学には同種の専門教育がある。翻って、日本には民間の支援組織によるマネジメント講座は多いものの、大学が実務家対象に行うものは皆無に近く、個々の組織課題のみならず、立場や組織、産官学民のセクターを行き交い活躍する人材育成を視野に入れたものは見られない。その意味で、Keio LEAP は、日本初の本格的なNPOリーダーシッププログラムだと言うこともできる。
慶應義塾がこのことに取り組むことの理由や社会的意義も小さくない。それは、慶應自体が、志ある人びとの自発的な参加と協力のなかで生まれた存在であり、またNPOの創業者や担い手をはじめとする有為な人材を数多く輩出してきたからである。このセクターに多少関わりのある人からすれば、国内外の活動の現場で塾生や塾員に出会うという経験が少なからずあるだろう。とくに、湘南藤沢キャンパス(SFC)では、開設以来、目立ってこの分野の人材を輩出してきており、それを目指して学部や大学院を志望する人も多く、NPOや社会起業家、社会イノベーションに関する授業も充実している。また、ビジネススクール(KBS)でも、近年は社会課題解決に関心を持つ学生も増え、ここでもNPOの経営者や企業で社会貢献を担うビジネスパーソンの存在がある。本プログラムは、こうした慶應義塾の来歴と教育研究実績を活かし大学院レベルの人材育成を進めるもので、このことを通して社会的役割を率先して果たしていこうとするものである。
プログラムは、KBSのエグゼクティブセミナーのように実務家を対象としており、学位課程ではないものの、修了者にはサーティフィケート(修了証)が授与される。その特徴のひとつは、KBSやSFCの教員はもとより、日本の代表的なNPO研究者、最先端で活動を行う実務家から幅広く講師陣が構成されていることで、基盤となる学問的理解、社会課題の最先端、組織デザイン、リーダーシップ、資金調達、協働、アドボカシー、アカデミックスキルなど、学術と実務双方の第一人者から多角的に学べる点にある。また、PBLやケースメソッド、ディスカッションの機会が多く用意され、参加者がチームで学びを深めるとともに、それ自体がクロスセクターのプラットフォームとなることが目指されている。
プログラムの本格開始に向けて
9月から開始したパイロットプログラムでは、25名の講師による全30の授業が用意され、応募者多数のなか選ばれた20人ほどの「第0期生」が、毎回熱心に参加している。NPOのリーダー層のみならず、企業や行政からも参加があり、会場となる北別館5階が早速クロスセクターの対話の場となりつつある。パイロットプログラムは、今後日本社会で必要となる効果的で価値の高いプログラムの研究開発という面もあり、参加者のコミットメントとフィードバックを得ながら、メンバー一同で検討を重ねている。今後は、こうしたプログラムの研究開発のみならず、この過程で実施される様々な活動からもユニークな研究成果が生み出されることも期待している。
また、参加者外からの要望にも応えるべく「NPOと社会を架橋する」をテーマとするオープンセミナー(11月〜12月で全3回)も企画された。この初回分は告知早々に定員に達するなど、期待の高さを実感しているところである。
こうした過程を経て、このプログラムは、2026年春から約1年間のフルプログラムとして本格実施する予定となっている。今後は、米国のNPOや大学との連携や、国内外でのフィールドスタディも構想されており、現在その準備も進めている。2026年1月以降にプログラムの詳細と、「第1期生」となる参加者の募集告知を行う予定である。日本の市民社会の未来をクロスセクターで創らんとする、意欲ある皆さんの参加を一同心待ちにしている。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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宮垣 元(みやがき げん)