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【社中交歓】立

2025/11/21

立川病院とは

  • 片井 均(かたい ひとし)

    国家公務員共済組合連合会立川病院病院長、慶應義塾大学医学部客員教授・1982医

東京都立川市にある国家公務員共済組合連合会の直営総合病院です。立川病院の理念は「質の高い、思いやりのある医療の実践」です。立川市の名前は、多摩川の水音が高く響くことから「立ち」と呼ばれたことに由来するという説が有力です。

立川病院は、戦前に東京第2陸軍共済病院として開院しました。院長、幹部は陸軍出身でしたが、医師は慶應義塾大学医学部に派遣要請され、派遣は戦後も続き現在も慶應義塾大学関連病院です。立川市は、米軍基地跡地の開発が進み、多摩地区の中心になりつつあります。23区よりも高齢化が進む一方で、郊外へ移り住む若い層の増加により若年人口も増加している地域でもあり、立川病院は市立病院がない立川市において半公的な役割を担っています。

地域の皆さんの拠りどころとなる病院として、赤ちゃんからお年寄りまで幅広い年齢層の方々に、全ての科が質の高い医療を提供しています。また地域医療支援病院、災害拠点病院、国指定の地域がん診療連携拠点病院などの役割を担っています。

立って喋ること

  • 立川 談慶(たてかわ だんけい)

    落語家、日本スタンダップコメディ協会会員・1988経

落語家の傍ら、「日本スタンダップコメディ協会」にも名を連ねています。会長の清水宏さん、副会長のぜんじろうさんとのご縁からです。

スタンダップコメディとは一言でいうならば、「I THINK」の世界観を「立って」喋るスタイルです。「自分はこう思う」という趣旨であれば、老若男女のみならず芸のキャリアなど全く問われない非常に公平で平等な技芸です。若き日の立川談志もスーツ姿で挑んでいたものでしたが、その諧謔精神の礎となったのが紀伊國屋書店創立者の田辺茂一さんでした。

「銀座の夜の帝王」田辺さんに対して談志は「乱暴ヨイショ」で斬り込みとてもかわいがってもらっていました。そこで訓練を積んだ賜物か、国政に立つ際「お前が国会議員になれるか!?」とのヤジを浴びたそうです。談志はすかさず「あなたより可能性はあります」と返した伝説があります。目指すはそんな境地。落語という形のある本業のみならず、当意即妙の「立て板に水」の話術。私もその後を追います。ご期待ください。

月と立体視

  • 田谷 修一郎(たや しゅういちろう)

    慶應義塾大学法学部准教授

大昔、人々は月を天蓋に開いた穴から漏れ出る光だと考えていたという。確かに、夜空に冴えざえと輝く満月は、球体というより平たい円盤に見える。

月が球体に見えないのは、その形を立体的に捉えるための「手がかり」がないからだ。たとえば、私たちは右目と左目に映る像のわずかなズレから物の奥行きを把握しているが、このズレは見る物が遠くなるにつれて小さくなり、月ほど離れると消えてしまう。また、私たちが歩いたり乗り物に揺られたりするとき、近くの物ほど速く、遠くの物ほどゆっくりと動くように目に映る。この関係も立体感や距離の手がかりだが、極端に遠い月には成り立たない。だからこそ、車窓から望む月はいつまでも「ついてくる」ように見えるのだ。

こうした距離感の喪失は、大きさの感覚も狂わせる。どんなに大きく見えたとしても、実際に目に映る月の大きさは、例外なく、伸ばした腕の指先の5円玉の穴に収まる程でしかない。信じ難いかもしれないが、次の月夜には5円玉を手にぜひ試してほしい。

相撲における「立ち合い」

  • 麻田 育弘(あさだ いくひろ)

    慶應義塾高等学校教諭、相撲部部長

相撲の勝敗を大きく左右するのが「立ち合い」である。平均185センチ、160キロを超える力士たちが、直径わずか15尺の土俵でぶつかる。その衝撃は計り知れず、「勝敗の6〜7割は立ち合いで決まる」とも言われる。後手に回れば挽回は難しく、先手を取ろうとする駆け引きが熱を帯びるのも必然だ。

本来、立ち合いとは「蹲踞(そんきょ)」の姿勢から呼吸を合わせ、行司の「はっけよい、のこった!」の声とともに始まる所作である。第三者の合図ではなく、力士同士の気迫が一致した瞬間にのみ取組が成立する。その希有な形式に、相撲ならではの美しさが宿る。

かつては仕切り線もなく、1時間以上もにらみ合う取組さえあった。詩人ジャン・コクトーは1936年の観戦で「絶対な一瞬、平衡の奇蹟を待つ」と記した。静から動へと切り替わる鮮烈な転換こそ相撲の本質だろう。勝敗を超えて文化と精神を映す鏡として、この伝統がこれからも生き続けることを願わずにはいられない。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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