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【From Keio Museums】展示室の外でオブジェクトと出会う

2025/08/08

「ふとした点景──岡崎和郎」会場風景 (第三期:2025年6月3日~8月6日)
写真:村松桂(株式会社カロワークス)
展示作品:
<薔薇を生ける>ギョーム・アポリネールに因む
2015年制作/造花、ガラス、石膏/32.0x14.0x14.0cm
写真:村松桂(株式会社カロワークス)

慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo、三田キャンパス東別館)館内にある階段の吹き抜けエリアをご存知だろうか。展示室までエレベーターで行き来すると意外と気づかれないのだが、実は一階から三階までをつなぐ大階段が存在している。二階層分の大きな窓がキャンパスの風景を建物のなかへ取り込んでいる、オープンな空間である。

その空間にひとつの展示台が設置されている。なかには一本のバラ。すぐに造花と気づくだろう。コップにバラが生けてあるといえば確かにそうなのではあるが、普段我々が「コップ」として認識するガラスの物体は逆さまに用いられ、そして破損している。また、そのコップの内側と思われる体積分が石膏でつくられている。館内照明あるいは移り変わる外光の加減により欠けたガラスの縁が光を帯び、大半は失われているにもかかわらずその存在感を強めている──。現代美術作家・岡崎和郎(かずお)(1930-2022)の作品、《〈薔薇を生ける〉ギョーム・アポリネールに因む》である。

KeMCoでは、この階段吹き抜けのエリアを使った新しい展示企画を2025年よりスタートした。空間と展示台と作品と、というミニマムな構成要素によるこの展示は「ふとした点景」と名付けられ、第一回は、物の内側を起点に1960年代より制作を展開した岡崎和郎の作品を四期に分けて一点ずつ展示している(第三期は8月6日まで)。この小さな展覧会シリーズは、大学のコレクションあるいは何かの縁でKeMCoへやってきた作品や資料に対して、来訪者がオブジェクトそのものに出会う機会を願って企画された。大学にはさまざまな文脈から多様なオブジェクトが集まるが、あるストーリーをもってそれらが並べられる展覧会企画のなかだけでは、そのすべてを紹介しきれない。そうした意味で、大学とオブジェクトの関係の豊かさを垣間見せていくことが狙いだ。

美術作品の展示に限らず、研究資料や、はたまた何かの道具など、オブジェクトであればどんなものでも登場する可能性を秘めている。今後どのような出会いがあるのか、KeMCoにお立ち寄りの際にはぜひ階段へも足を運んでみていただきたい。

(慶應義塾ミュージアム・コモンズ所員 長谷川紫穂)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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