【その他】
【社中交歓】白
2025/06/27

故郷の価値に気づく
春先に水揚げされる白エビは、北陸の長く厳しい冬が終わり、春の訪れを感じさせる象徴の1つである。透き通った淡い桃色の小さなエビは、桜の開花と同じくらい、私たちの心を躍らせてくれる。
富山県で生まれ育った私にとって、白エビはごく普通の食材の1つだった。家庭では天ぷらや唐揚げとして食卓に並び、寿司屋でいただくお寿司はご馳走ではあったが、当たり前の光景だった。しかし、大学で出会った様々な出身地の友人たちと話すなかで、白エビが富山ならではの貴重な名物であることに気づかされた。大学で学ぶということは、私にとって富山の良さや食文化にあらためて気づかせてくれるものとなり、多様な背景を持つ人々との交流によって、当たり前の風景に新たな価値が与えられた。
近年は能登半島地震の影響もあり、白エビの漁獲量が減少している。これまでのように気軽に食べられない日が来るかもしれないと思うと、少し寂しい。これからも白エビとともに、富山での暮らしを大切にしていきたい。
マスク外して綺麗な歯
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太田 淳也(おおた じゅんや)
医療法人社団OJC 理事長、おおたデンタルクリニック用賀院長・2024法(通信)
ここ最近はコロナ禍も落ち着いて、常時マスクという生活を終えた方も多いのではないでしょうか。
歯科業界では、マスク生活の間は歯科矯正のニーズが非常に多かったようです。マスクによって矯正器具が目立たないことに加え、外出しないため出費が少なく歯にお金をかけられる、などが理由でしょうか。初対面の人のマスクを付けた顔と、外した顔に大きなギャップを感じることで、より口元の大切さを認識された方も多いと思います。隠されていることにより、その重要性が際立ったように感じます。
そしてマスク生活を終えた今、ホワイトニングの需要が高まっています。これも口元に対する意識向上の表れだと考えられます。
効果が高い過酸化水素などは歯科医師がいないと使用できないため、エステサロン系ではなく歯科医院でのホワイトニングのほうが白い歯になりますが、歯科医院ごとの技術の差は少ないと思います。
今後もホワイトニングなどをきっかけに、地域の方々の口腔内への意識を高めていきたいと思います。
白夜と孤独な博愛
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越野 剛(こしの ごう)
慶應義塾大学文学部教授
帝政時代のロシアの首都、聖なる(サンクト)ペテルブルクは夜になると青銅の騎士像が動き出したり、人間の鼻だけが馬車を乗り回したり、自分とそっくりの分身と道で出会ったりすることのある不思議な都市だ。フョードル・ドストエフスキーの小説『白夜』では、ペテルブルクの日の沈まない幻想的な数日間の夜、孤独な青年が不幸な娘に報われることのない愛を捧げる。娘が不幸なのは、不在の恋人が愛おしくもあれば、自分のもとに戻ってこないのが憎いからでもある。青年の愛が報われないのは、憎しみという影のない明るい博愛だけでは、肉体を備えたひとりの人間を愛することはできないからだ。青年は娘と恋人の再会を奇妙なほどに明るい歓喜を抱いて受け入れる。それは夜なのに闇のない白夜に似ている。ところで、夏に白夜があるところでは、冬には昼間でも日の昇らない極夜がある。憎しみだけしか感じられない戦争の暴力は極夜に似ている。終わらない戦争を始めたロシアのプーチン大統領もペテルブルクの出身者である。
白衣清香 護病者
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藤井 千枝子(ふじい ちえこ)
慶應義塾大学看護医療学部教授
看護医療学部は来年開設25周年を迎える。2018年は慶應の看護教育100年の節目であった。その際、慶應病院の野澤芳子元婦長のイラストや卒業アルバムをもとに白衣や実習着などの服装史をまとめた。開設当時の石田新太郎塾幹事より梅の襟章が考案された。1927年、北島多一看護婦養成所所長は「白衣清香(はくいせいか) 護病者」と卒業を祝った。慶應看護の象徴であった丸型のナースキャップやピンバッジには、常にペンマークをかざしてきた。ただし、ナースキャップは洗濯糊で固めていたことから、2000年代になり、感染予防の観点から廃止になった。現在の看護医療学部の実習着はスカート型がなくなり、紺色のパンツ型となっている。近年の看護分野の白衣は、白色以外を選択することも増えてきており、時代によって白衣も変わってきた。
仕事着を纏う際に身形を整える意義は、慶應看護の先人の想いと共に続いている。これからの慶應看護も、梅のように一輪ごと凛とし、清らかに香り続けてほしい。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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前川 浩子(まえかわ ひろこ)
金沢学院大学文学部教授、富山県三田会会員・2000文、2002社修、2005社博