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【その他】
【社中交歓】亀

2025/05/29

カメからわかる恐竜のこと

  • 平山 廉(ひらやま れん)

    早稲田大学国際教養学部教授・1979経

私が大学院でカメの化石の研究を始めてから半世紀近くにもなる。当初はこのテーマでそんなに長く研究を続けられるとは思いもよらなかった。この研究が続いた大きな理由として国内で見つかるカメの化石が予想外に多く、しかもそのほぼ全てが新種であったことが挙げられる。

カメの仲間が初めて現れるのが約2億3000万年前、最古の恐竜と同じ時代である。我が国では近年、恐竜化石の発見が相次いでいるが、必ずと言っていいほどたくさんのカメの化石が一緒に見つかる。そこで私が出向いて見つかったカメたちの種類やその生態を判別する。すると恐竜が生きていた当時の環境も見えてくるというわけだ。やがて(約6600万年前)恐竜は滅びてしまうが、カメの多くは何事もなかったかのように生き延びて現在に至っている。恐竜の生態や絶滅の原因は謎に満ちているが、一緒に暮らしていたカメたちからその手がかりが見つかってくる。人類が恐竜と同じ運命を辿ることのないように願う。

亀塚稲荷神社にて想うこと

  • 櫻井 裕大(さくらい ひろお)

    港区三田会常任理事・1991法

三田キャンパス南方、聖坂中腹の亀塚稲荷神社(かめづかいなりじんじゃ)をご存じであろうか。太田道灌(おおたどうかん)が当地に物見台を造った際に建立したという。元々は近隣の亀塚公園亀山上にあったそうだから、四方いずれも眺望抜群ではなかったか。眼下には江戸湾が間近に迫り、海の幸にも恵まれていたであろうことは園内の縄文貝塚からも偲ばれる。東京都神社名鑑によれば「昔、月の岬(三田台町)に出没した亀が、一夜の嵐に石と化した。里人この亀の霊を祀り、祠を設けた」とのご由緒もある。亀の形の石が、ご神体。福澤先生であれば、手に取って確認なさるであろうか。私に、その勇気はない。

聖坂の先に続く尾根道、二本榎通りには高輪皇族邸ほか、神社・仏閣・教会、近代建築遺産などが連なる。歩き疲れ空腹になれば、木陰のベンチで豆大福やバゲットを頬張れば良い。幕末とは異なり、インバウンド客でも安全だろう。

長閑な光景を眺めつつ、今日も私は歩き続ける。亀のように。

カメから考える未来

  • 神里 彩子(かみさと あやこ)

    国立成育医療研究センター研究所医事法制研究部長・1996環

我が家には2匹のカメがいる。2匹ともミシシッピニオイガメという種類だが、性格はかなり違うので面白い。年齢は12歳と8歳だ。2024年末現在の最高齢カメは192歳(イギリス領セントヘレナ島)というから、2匹との暮らしもまだまだ続けられるだろう。それにしても、カメはなぜ長寿なのか。2022年、デンマークのチームは、食餌や温度等が安定した飼育環境に置かれているカメでは「加齢」が「死」にほとんど影響を及ぼさないという結果を報告した(Science376)。日本人の平均寿命はこの60年間で15~20年延びたが、それは生活環境や医療体制等の改善によるものであり、「加齢」による老衰は避けられていない。カメの研究は、人間の老化制御のヒントにもなりそうだ。しかし、「不老長寿社会」が実現したとして、それはどのようなものになるのだろう。世界幸福度レポートによると、日本の幸福度ランキングは55位(2024年結果)だった。「幸せ」に長生きできる社会になることを切に願う。

亀山社中の実相とは

  • 町田 明広(まちだ あきひろ)

    (神田外語大学外国語学部教授・2002文(通信))

明治維新の英雄として、誰もがイメージする人物は坂本龍馬であろう。その龍馬の最大の功績として、薩長同盟が挙げられる。薩長融和の起点は、長州藩による薩摩藩の名義貸しによる軍需品の購入とされ、亀山社中の功績が大きく取り上げられてきた。しかし、龍馬がそれを思いつき、西郷隆盛の承諾の下、実際に動いたのは龍馬が長崎で設立した亀山社中だったというストーリーは、後世の創作である。

亀山社中の実態は、薩摩藩の家老・小松帯刀の配下にある龍馬以外の土佐脱藩浪士グループの一団を指している。彼らは薩摩藩名義で購入した軍艦運用も行い、長州藩士に対して自分たちをグルーピングし、あくまでも薩摩藩士の一団として「社中」と名乗ったに過ぎない。なお、「亀山」というのは、昭和に入って付け足されたものである。また、当時の西郷にそれを許可する権限はない。

これまで史実として語られてきた亀山社中は、存在したとは言い難く、また、この時期に龍馬は長崎にいなかった。「亀山社中」は、龍馬伝説の1つである。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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