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【KEIO Report】三田キャンパス北別館竣工
2025/05/13

本年3月19日、三田キャンパス北別館の竣工式が執り行われました。北別館は、三田キャンパスの北西部、北門から徒歩約5分の位置にあり、綱の手引坂と神明坂が交差する、綱町三井倶楽部の正面にあります。当日は、季節はずれの雪に見舞われ、会場となった北別館6階のイノベーションラウンジ・ミーティングルームの窓から、雪化粧したルーフガーデンを望む中での式典となりました。式典では、伊藤公平塾長より、三井不動産レジデンシャル株式会社代表取締役社長嘉村徹氏、大成建設株式会社代表取締役副社長執行役員管理本部長岡田正彦氏へ感謝状が贈呈されました。続いて伊藤塾長による施主挨拶の後、慶應義塾評議員会議長の岩沙弘道氏、嘉村氏、岡田氏からご祝辞を賜り、担当理事の岡田より挨拶を行いました。式典後には、大成建設の設計担当者による北別館の概要説明があり、施設見学が実施されました。
北別館の建設は、旧逓信省簡易保険局庁舎跡地の再開発プロジェクト「(仮称)三田1丁目計画(共同住宅棟・大学棟)」の一環として位置づけられています。2020年3月の慶應義塾評議員会において、港区三田1丁目所在土地(旧かんぽ生命跡地)の取得が承認されました。土地の取得にあたっては、再開発計画に基づき、大学棟を共同住宅棟との一団地建築物とすることや、用途は大学に限定され、薬品・放射性物質・動物等を用いたウェットな実験活動は実施しない等が条件とされました。地鎮祭は、2022年11月7日に挙行されました。前年から開始されたワクチン接種により行動制限は緩和されつつあったものの、第8波の到来が懸念されるウィズコロナ下での神事となりました。建設期間中には、建設業界全体における働き方改革や全国的な人手不足が工期に与える影響が懸念されましたが、施工業者をはじめとする皆様のご尽力により、建物本体の工事は予定通り2024年12月末に完了し、2025年2月28日に竣工引き渡しを迎えることができました。
北別館は地上6階建ての鉄筋コンクリート造で、延床面積は約4900平米、塾監局の約2倍の広さを有します。外観は、隣接する共同住宅棟とともに旧簡易保険局庁舎の重厚さを継承しつつ、広いガラス面を活かしたシャープなデザインが特徴で、周囲の綱町三井倶楽部や大使館との調和も意識されています。外装には国内最高水準の日射熱除去性能を持つペアガラスを採用しており、高効率の空調機器や、人感・昼光利用センサーによる照明制御などの導入により、高い省エネルギー性能を実現しています。内装には、慶應義塾が所有する学校林のひとつである南三陸町のFSC認証林・志津川山林で伐採された杉材を製材・準不燃処理し、壁材等に利用しています。学校林は、北は宮城県から南は和歌山県に至る各地にあり、福澤育林友の会や林業三田会の皆様のご協力により維持管理され、一貫教育校を含む教育・研究活動にも活用されています。北別館での木材利用による二酸化炭素固定量は約14トンに達しており、デザイン上の工夫により、様々なサイズの杉板や端材を無駄なく使用しています。また、籾殻やヒノキの再利用素材、再生木のデッキ、杉の間伐材を粉砕・加工したサインボードを用いるなど、持続可能な社会に資する建築としてSDGsの理念を随所に反映しています。
北別館の活用にあたっては、「三田キャンパスを中心とする教員が広く参画できる研究・教育の拠点」、および「三田キャンパスの多様性を活かしたセレンディピティの場」を目指し、地理的特性や土地取得時の制約も踏まえ、三田キャンパスに新たな機能を創出する「知の出島構想」として検討されました。さらに、2023年度に、慶應義塾大学が「学問の社会実装」と「起業家・実業家の創生」を柱とする「未来のコモンセンスをつくる研究大学」として、文部科学省の地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)に採択されたことを受け、三田キャンパスに分散していた「学術研究支援部」、「研究連携推進本部」、「イノベーション推進本部」、「グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)」を北別館に集約し、研究支援体制の強化が図られることとなりました。
1階には、エントランスに続くラウンジ、スクール形式で定員72名および45名のレクチャールーム、同時通訳室として利用できる多目的室が設けられています。レクチャールーム2室とラウンジの間はいずれも可動間仕切りになっており、フロア全体を一体的に利用することも可能です。これらの施設は、学術講演会や公開講座、さらには1週間程度の短期レンタルラボなど、研究関連用途を優先して使用する予定です。2階にはオンラインによる情報発信のためのスタジオが2室設置されており、教員個人の研究発信や研究者ネットワーク形成に寄与することが期待されています。また、2階の一部および3階には、研究支援関連の事務組織が配置されます。4階および5階は「知の出島構想」の中核を担うオープンラボとして、専門横断的な研究・教育活動の場となります。4階には、KGRIの「Keio STAR(Sustainable and Transformative Actions for Regeneration)」が拠点を構え、サステナビリティに資する新しい文化と産業を創出し、実践する「アクションタンク」として活動を展開します。5階では、経営管理研究科を中心に、非営利組織なども含む幅広い起業・経営に関する研究と人材育成が行われます。6階には、イノベーションラウンジとミーティングルームが設けられ、教員の分野横断的な交流の場として、また講演会や懇親会の会場として柔軟に活用される予定です。
北別館は、慶應義塾における知の融合と発信や社会実装による経済的価値の創出にとどまらず、智の力によって学問の社会実装のあり方そのものを変革する場として誕生しました。計画段階から竣工に至るまで多大なご尽力をいただいた関係者の皆様に、改めて深く感謝申し上げますとともに、本施設が多くの方に活用され、知の交流と創造の拠点となることを心より願っております。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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