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【KEIO Report】小さな変わり種の大学ミュージアム「登録博物館」になる──慶應義塾大学アート・センター

2025/04/18

  • 渡部 葉子(わたなべ ようこ)

    慶應義塾大学アート・センター教授

2024年暮れに待ちわびた通知がもたらされました。12月23日付で慶應義塾大学アート・センターが「登録博物館」として新規登録されたという東京都教育委員会からの知らせです。8月末に申請書類を提出し、追加の問い合わせなどを想定した気を揉む日々を過ごした後にもたらされた朗報でした。─こう書かれても、登録博物館とは一体何か、それに申請するとはどういうことか、当事者でなければ見当もつかず、アート・センターが博物館というのも腑に落ちないかもしれません。

慶應義塾大学アート・センターは1993年に学内唯一の芸術系研究所として開設されました。開設以来、幾つかの場所を転々とし、2011年に現在の所在地である三田キャンパス南別館に移転し、同時に1階に展示スペースが併設されることとなりました。折しも大学が所定の科目履修をもって付与できる国家資格である学芸員資格の要件見直しがされている時期でもあり、それに合わせて大学博物館が刷新されたり、新設されたりしていました。博物館学実習を大学内で行うにあたって博物館相当施設やそれに準ずる施設をもつように示されていたからです。

その流れの中で、この移設以降、博物館相当施設申請に取り組み、2013年に相当施設に指定されました。旧博物館法下であれば、一度、申請して指定されればそのまま何十年でも過ぎるという形でした。ところが戦後ほどなく制定(1951年制定、55年単独改正)された博物館法には、現状にそぐわない部分も見られ、また、一度認定してその後はケアをしない法律の在り方で良いのか、という反省も生まれていました。そこで、約70年ぶりに博物館法の大幅改正が進められることとなり、2022年4月「博物館法の一部を改正する法律」いわゆる改正博物館法が公布され、翌2023年4月から施行されました。

この改正の最大のポイントは設置主体の限定が撤廃されたことで、それまで相当施設申請しか認められていなかった学校法人が設置する博物館にも登録博物館となる道が開かれました。しかも、改正博物館法の施行を受けて、5年以内に旧法における登録博物館、相当施設は再申請をすることが求められたのです。そうなるとアート・センターも5年以内に再申請をしなければなりません。所蔵資料のリストを精査し、図面や登記、組織構成など求められる全ての関係書類を整え、申請をする必要があります。2013年申請時の膨大な作業が頭をよぎりました。しかも、公布時点では、東京都が申請に必要と定める書類要件等が明確ではなく、法改正によって、見通しのつかない部分もありました。初年度に再申請を行うことは困難と考えられたので、2023年度を準備期間として2024年度中に再申請をする計画を立てました。

当初は学校法人に登録博物館への道が開かれたとは言え、相当施設として再申請する方針でした。というのも大きな変更が加えられた博物館法ですが、年間150日開館という要件は変更されなかったからです。現在の組織運営規模では相当施設要件の100日をコンスタントに開館するのがせいぜいで、150日開館を実施していくことは無理ということは10年余り運営してきて明白でした。ところが、その後、展示の現実開館だけでなく「資料にアクセス可能な日」を開館日に含めてよいことが判明します。アート・センターでは年間を通じてアーカイヴ資料を閲覧者に公開していることから(例えば2023年度は年間245日)申請要件を満たすと判断し、登録博物館として申請する方針に切り替えました。

こうして、資料準備に向けての改正法の勉強会に始まったアート・センターをあげての2年に及ぶ準備が整い、東京都教育委員会への相談ヒアリングを経て、提出を成し遂げたのが8月末だったのです。そして、東京都の大学ミュージアムとしては2023年度に最初に登録された共立女子大学博物館、2024年9月の駒澤大学禅文化歴史博物館に続き、明治大学博物館とともに3番目に登録された館となりました。

アート・センターは確かに他の大学博物館と比較すると所蔵資料もその活動も博物館らしくないところがあります。しかもその博物館的活動は自分の場所だけに留まらず拡張的です。例えばアート・センターが管財部とともに事務局を務める美術品管理運用委員会は大学・学校全体の美術作品のケアを行う活動です。これは、大学における美術品の管理と活用についてのユニークかつ有効な方法として他大学からも大いに注目されています(詳細はこちら)。また、長年取り組んできた「都市のカルチュラル・ナラティブ」は大学を地域に開くプロジェクトですが(プロジェクトの詳細はこちら)、改正法では新しく項目を設けて博物館が地域の文化的活動の活性化に寄与することを求めており、まさにそれを先取りする活動展開と言えるでしょう。

最後に大きな課題についても言及しておかなければなりません。今回の改正法では取り組むべき事業として新たに「博物館資料に係る電磁的記録を作成し、公開すること」という項目が追加されました。資料情報のデジタル化と公開は多くの博物館が頭を悩ませているところですが、今回の申請にあたっては、東京都への相談の際にもウェブ上に情報がどれくらい公開されているか、という点が非常に重視されており、改正法はデジタル時代への対応を促すという大きな意向があることが強く感じられました。アート・センターも登録博物館になったとはいえ、この点はまだ不十分であり、今後さらなる取り組みが必要となっています。

アート・センターは小さな大学ミュージアムですが「登録博物館」として大学の教育に寄与しつつ開かれた活動を展開し続けていきたいと考えています。是非、一度、足を運んでみてください。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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