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【From Keio Museums】芸術作品の転写と鏡像

2025/04/24

リチャード・ハミルトン《眼科医の証人[マルセル・デュシャン]》1968/1972年
ポスター(シルクスクリーン・プリント、銀箔押し、アセテート・フィルムのラミネート加工)、79.6x58.5cm、撮影:株式会社カロワークス
所蔵:慶應義塾大学アート・センター

本作は、20世紀を代表する芸術家の1人であるマルセル・デュシャン(1887-1968)が自身の作品のレプリカ(ガラス板)を持ったポスターである。シルクスクリーンで刷った後、銀箔を押して図像を作り、さらに透明のフィルムを貼るという凝った作りである。

このポスターを制作したリチャード・ハミルトン(1922-2011)はイギリス出身でポップ・アートの代表的担い手の1人と考えられているが、もう一方でデュシャンを研究し、その作品のレプリカを制作したことでも知られている。主要なものはガラス製の立体《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(通称「大ガラス」、1915-23)のレプリカだが、このポスターでデュシャンが持つのは「大ガラス」下部の「眼科医の証人」と呼ばれる部分である。つまり、このポスターはハミルトンが制作した自身の作品のレプリカをデュシャン本人が手に持って眺める作品である。写真に映るガラス板の透明性を表現するためにフィルムが貼られており、見る角度によっては反射でデュシャンの顔が見えなくなるほどガラスのように機能する。さらに「眼科医の証人」というタイトルからわかるように、見ることについて考える作品である。この写真はハミルトン撮影であるが、奥にいる原作者のデュシャンと、再制作者のハミルトンが、ちょうど鏡像的関係になるようにガラス面が機能する。銀色に輝く図像はどこに位置しているのかわからなくなる。

このポスターのかつての所有者であり、デュシャンに関心を持っていた瀧口修造(1903-79)は岡崎和郎(1930-2022)と共に、デュシャンの「眼科医の証人」部分を取り上げた《檢眼圖》(1977)という立体作品を制作している。

慶應義塾大学アート・センターでは現在、アート・アーカイヴ資料展XXⅦ「交信詩あるいは書簡と触発:瀧口修造と荒川修作/マドリン・ギンズ」(2025年3月17日-5月30日)にて、このポスターが公開中である。

(慶應義塾大学アート・センター・アーキビスト/所員 久保仁志)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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